恐惶きょうこう)” の例文
その恐惶きょうこうの最中に司教がそこへやって行った。巡回をしていたのである。シャストラルで、村長は彼を訪れてきて途を引き返すように勧めた。
ジャックリーヌは恐惶きょうこうの日々を送った。叔母に会うと多少安心した。仕合わせにもマルトはあまり苦しんではいなかった。
……為に、県下の騒乱ひとかたならず、すみやかに二次の官軍と良将を御派遣あって、治安のため焦眉しょうびの御指導を給りたく……云々しかじか恐惶きょうこう謹言。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その地方に大恐惶きょうこうをきたし、毒団子を撒布さんぷするやら、鼠の伝染病の黴菌をまくやら、非常な騒ぎをした。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
横浜の貿易に非常の影響えいきょうこうむらざるを得ず、すなわち外人の恐惶きょうこうもよおしたる所以ゆえんにして、彼等の利害上、内乱ないらん干渉かんしょうしてますますその騒動を大ならしむるがごときおもいもらず
弟子達の困憊こんぱい恐惶きょうこうとの間に在って孔子は独り気力少しもおとろえず、平生通り絃歌してまない。従者等の疲憊ひはいを見るに見かねた子路が、いささか色をして、絃歌する孔子のそばに行った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
萩之進のほうは覚えのあることだから、大いに恐惶きょうこうして、なんとか乞食の相をはらいたいと思い、いまの故事にならって、千人悲願を思い立ち、そこで書きのこした一筆いっぴつが『すさきの浜』……
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
良心にわれて恐惶きょうこうせる盗人は、発覚を予防すべき用意にいとまあらざりき。渠が塀ぎわに徘徊はいかいせしとき、手水口ちょうずぐちひらきて、家内の一個ひとりは早くすでに白糸の姿を認めしに、渠はおそくも知らざりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尊大人そんたいじん様、大孺人じゅじん様を初め御満堂よろしく御超歳ちょうさい大賀たてまつり候。獄中も一夜明け候えば春めき申し候。別紙二、書初かきぞめ、蕪詞、御笑正ねがい奉り候。まず新禧しんき拝賀のためかくの如くに御坐候。恐惶きょうこう謹言。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
右のごとく長州の騒動そうどうに対して痛痒つうようあいかんせざりしに反し、官軍の東下に引続ひきつづき奥羽の戦争せんそうに付き横浜外人中に一方ならぬ恐惶きょうこうを起したるその次第しだいは、中国辺にいかなる騒乱そうらんあるも