恋歌こいか)” の例文
旧字:戀歌
「いや、しかし恋歌こいかでないといたして見ますると、その死んだ人のほうが、これは迷いであったかも知れんでございます。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女の胸より湧きかえる燃えるような恋歌こいかの息に、その熱き唇に蝋人形は幾たびとなく接吻せっぷんされたのである。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
余は春信の女において『古今集』の恋歌こいかあじわふ如き単純なる美に対する煙の如き哀愁を感じてまざるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ブラームスの『恋歌こいか』(五〇〇三六)も愛されて良い。シューマンの『二人の擲弾兵てきだんへい』も、劇的な美しさにおいて、シュルスヌスのかもす雰囲気は第一等かも知れぬ。
その昔、大宮人おおみやびとは、どちらにでも意味のとれる様な「恋歌こいか」というたくみな方法によって、あからさまな拒絶の苦痛をやわらげようとしました。彼の場合はちょうどそれなのです。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは古今集の恋歌こいかでございますが、筆蹟は消し炭で書いたのですから確と分りませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恋歌こいか艶書えんしょ千束ちつかにあまるほどであったが、玉藻はどうしてもその返しをしないので、実雅はしまいにこういう恐ろしいことを言って彼女をおびやかした。自分の恋を叶えぬのはよい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生命いのちもなにかは、と歌い寄せる恋歌こいかは、貫之つらゆき道風とうふうをまなんだいとうるわしい万葉仮名まんようがなで書かれるが、その愛が、文字のごとく美しかった例は、星屑ほしくずほども多かった殿上人の恋のうちにも
されば予が世尊金口せそんこんく御経おんきょうも、実は恋歌こいかと同様じゃと嘲笑あざわらう度に腹を立てて、煩悩外道ぼんのうげどうとは予が事じゃと、再々しざまに罵り居った。その声さえまだ耳にあるが、当の雅平は行方ゆくえも知れぬ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを大掴おおづかみに、恋歌こいかを書き散らして参った。しからぬ事と、さ、それも人によりけり、御経おきょうにも、若有女人設欲求男にゃくうにょにんせつよくぐなん、とありまするから、一概いちがいとがめ立てはいたさんけれども。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女の肌も知らぬ清浄しょうじょうな君ならば、あんな恋歌こいかみ出られるはずはない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)