得堪えた)” の例文
浪子は忿然ふんぜんとして放ちたる眼光の、彼がまっ黒き目のすさまじきに見返されて、不快に得堪えたえずぞっと震いつつ、はるかに目をそらしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼をかつせしいかりに任せて、なかば起したりしたいを投倒せば、腰部ようぶ創所きずしよを強くてて、得堪えたへずうめき苦むを、不意なりければ満枝はことまどひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思ひもかけぬ旅僧の手練てなみに、さしもの大勢あしらひ兼ね、しらみ渡つて見えたりければ、雲井喜三郎今は得堪えたへず、小癪こしゃくなる坊主の腕立てかな
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
他に寒紅梅一枝の春をや探るならんと邪推なし、瞋恚しんいを燃す胸の炎は一段の熱を加えて、鉄火五躰をあぶるにぞ、美少年は最早数分時も得堪えたえずなりて
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後に目科は余に向い「誠に残念ですが、勤めには代られぬたとえです、此勝負は明日に譲り今日は是で失敬します」とて早や立去らん様子なり、勝負の中止も快からねどそれよりも不審に得堪えたえず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
常に可忌いまはしと思へる物をかく明々地あからさまに見せつけられたる貫一は、得堪えたふまじくにがりたる眉状まゆつきしてひそかに目をそらしつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
渠の心は再び得堪えたうまじく激動して、その身のいまや殺されんとするをのがれんよりも、なお幾層の危うき、恐ろしきおもいして、一秒もここにあるにあられず、出刃を投げつるより早く
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日はことして来にけるを、得堪えたへず心のとがむらん風情ふぜいにてたたずめる姿すがた限無かぎりななまめきて見ゆ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
坂道さかみち得堪えたへぬらしい、なよ/\とした風情ふぜいである。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)