後架こうか)” の例文
「え、そうです。お客さまは、お後架こうかへ行こうと思って迷子になったんでしょう。わたしが連れて行ってあげましょう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八月の藤の花は年代記ものである。そればかりではない。後架こうかの窓から裏庭を見ると、八重やへ山吹やまぶきも花をつけてゐる。
おれは新聞を丸めて庭へげつけたが、それでもまだ気に入らなかったから、わざわざ後架こうかへ持って行っててて来た。新聞なんて無暗むやみうそくもんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……ただし、紅白の蓮華が浴する、と自讃して後架こうかの前から急に跫音あしおとを立てて、二階の見霽みはらしへ帰りました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おれだよ」万吉は栄二の前へまわった、「あにいに話があったもんで、後架こうかから出るのを待つつもりだった、そうしたらあにいがこっちへ来るもんだから、どうするのかと思ってついて来たんだ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると法螺忠は、後架こうかへでも走るらしく、やおら立上ると
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
自分は夜も仕事をつづけ、一時ごろやっととこへはいった。その前に後架こうかから出て来ると、誰かまっ暗な台所に、こつこつ音をさせているものがあった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
北側の空地あきちに彼等が遊弋している状態は、木戸をあけて反対の方角からかぎの手に曲って見るか、または後架こうかの窓から垣根越しにながめるよりほかに仕方がない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粗末な後架こうかを出て、濡れ縁の端の掛樋かけひへ寄って行かれると十四、五歳の童僕わっぱが、下にいて
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上敷うわしきを板に敷込んだ、後架こうかがあって、機械口の水もさわやかだったのに、その暗紛れに、教授が入った時は一滴の手水ちょうずも出なかったので、小春に言うと、電話までもなく、帳場へ急いで、しばらくして
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて下女が持って来た名刺を見て、主人はちょっと驚ろいたような顔付であったが、こちらへ御通し申してと言い棄てて、名刺を握ったまま後架こうか這入はいった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寝床のすその障子には竹の影もちらちら映っていた。僕は思い切って起き上り、一まず後架こうかへ小便をしに行った。近頃この位小便から水蒸気の盛んに立ったことはなかった。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きょうか明日あすかとも見える容態になっても、石舟斎は決してかわやへ通うのに、ひとの手を借らなかった。手沢しゅたくのかかった細竹の杖をついて、病室の濡縁ぬれえんから後架こうかへゆくのを常としていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その三円を蝦蟇口がまぐちへ入れて、ふところへ入れたなり便所へ行ったら、すぽりと後架こうかの中へおとしてしまった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯母をばさん」と云ふ。「まだ起きてゐたの?」と云ふ。「ああ、今これだけしてしまはうと思つて。お前ももう寝るのだらう?」と云ふ。後架こうかの電燈はどうしてもつかない。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「氷のえんをあるいて、後架こうかへ通ううちに、わしは工夫をこらし、浮身の法というのを発明した。それは浮身の太刀とも名づけられるもの。……一太刀、って、宗矩にも兵庫にも示したいが……」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきなり後架こうかから飛び出して来て、吾輩の横腹をいやと云うほどたから、おやと思ううち、たちまち庭下駄をつっかけて木戸から廻って、落雲館の方へかけて行く。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は縁側伝ひに後架こうかの前に
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)