彼此ひし)” の例文
そしてその称呼は時に彼此ひし相通用し、その実河原者をもしばしば坂の者と呼び、坂の者をも或いは河原者と呼ぶ事にもなったらしい。
このふたつの情はたとえその内容において彼此ひし相一致するとしても、これを同体同物としては議論の上において混雑を生ずる訳であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
樺太からふとハロ人雑居ノ地ナルヲもっテ、彼此ひし親睦しんぼく、事変ヲ生ゼザラシメ、シカル後手ヲ下シ、功ヲ他日ニ収メン」とするものであり
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
物理学上物質の多少はつまりその力の大小に由りて定まるので、即ち彼此ひしの作用的関係より推理するのである、決して直覚的事実ではない。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
南軍と北軍と、軍情おのずから異なることかくの如し。一は人えきくをくるしみ、一は人ようすをたのしむ。彼此ひしの差、勝敗に影響せずんばあらず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいはなんの思想をもいだかずに世渡りをする者に対しては、はなはだ面白からぬ印象いんしょうを与えるがために、とかく彼此ひしの批評を受けたり、あるいは
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
草蘆をたたいて俳句を談ず。その標準は誤り、その嗜好しこうは俗に、称揚する所の句と指斥しせきする所の句と多くは彼此ひし顛倒てんとうせり。予曰く、の言ふ所、ことごとく予の感ずる所と相反す。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
けだしそれ、文字・文章は声音の記号、言語の形状にして、古今を彼此ひしを通じ、約諾やくだくしるし、芸術をひろむる、日用備忘の一大器なり。まことに言語と異なるべからず。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
此の国に入りてよりの後、一心同体として相互扶助し、彼此ひしの別あるを許さず。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼此ひしの裁判官の間に法的正義観の差異があったと言えるのである。
あれはやはり彼此ひし同様の意味にとるのがよいのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼此ひしの間、ごうも差異あることなし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかしそれが為に今日そう彼此ひしの間の社会的地位に差別があるでもなければ、恐ろしいものとして憚られているもののみでもない。
ここにおいて一方に神あれば一方に世界あり、一方に我あれば一方に物あり、彼此ひし相対し物々相背くようになる。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
大袈裟おおげさな言葉で云うと彼此ひしの人生観が、ある点において一様でない。と云うに過ぎん。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なお少からず彼此ひしを混同し、また日本を以て「もと小国」などと誤りたる観察を下したのではあったが、日本が倭の地を併すとの説は正しい伝えであった。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
更に進んで考える時は、自然と精神とは全然没交渉の者ではない、彼此ひし密接の関係がある。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかるに彼此ひしの人口漸く増加して、これまでまるで別世界の変った人類であるかの如く考えられていたものも、だんだん境を接して住まねばならぬ事となる。
彼此ひし類似の経路を取って、類似の境遇に流れ込むという事は、何処にもあってしかるべきものと思われる。
彼此ひしの著しい時代の相違のあるのは、その噺の主人公となっている人物の時代の相違による事で、或いはそれを平安朝頃の人と伝えている地方もあるらしいが、つまりは或る卑賤な炭焼の下司男が