もてあ)” の例文
それは生来うまれつきの低脳者で、七歳ななつになる時に燐寸マツチもてあそんで、自分のうちに火をつけて、ドン/\燃え出すのを手を打つて喜んでゐたといふ児ですが
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人の頭上に落ちてくるという事実をしたたむるのです、僕の身の上のごとき、まったくそれなので、ほとんど信ずからざるあやしい運命が僕をもてあそんでるのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大川のふちにしゃがみ込んで、何の用事で来たかというように、墨江が口を切る迄、黙って小石をもてあそんでいる。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は本当に情にせまって刃物三昧はものざんまいをする気なのだろうか、または病気の発作に自己の意志を捧げべく余儀なくされた結果、無我夢中で切れものをもてあそぶのだろうか
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうなって稚市という存在が、むしろ運命というよりかも、私という孤独の精神力から発した、一つの力強い現われだとすると、かえって、それをもてあんでやりたい衝動に駆られてゆきました。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「嗅覚に毒気が感じられる。誰か毒石をもてあそんでいるな」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これを見るにけて自分の心は愈々いよいよ爛れるばかり。然し運命は永くこの不幸な男女をもてあそばず、自分が革包かばんを隠した日より一月目、十一月二十五日の夜を以って大切おおぎりてくれた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ねずみもてあそぶ猫のようなこの時の彼女の態度が、たといはたから見てどうあろうとも、自分では、閑散な時間に曲折した波瀾はらんを与えるために必要な優者の特権だと解釈しているらしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)