廓内かくない)” の例文
敵性人は絶対にいないはずの廓内かくないでも、防諜上には、日夜細心な警戒を怠っていない。これだけは例外なく、どこの城も同じといえる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治三十年三月十五日の暁方あけがたに、吉原なかちょうの引手茶屋桐半の裏手から出火して、廓内かくない百六十戸ほどを焼いたことがある。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さればや僕少壮の頃吉原よしわら洲崎すさきに遊びても廓内かくない第一と噂に高き女を相方あいかたにして床の番する愚を学ばず、二、三枚下つたところを買つて気楽にあそぶを得手えてとなしけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
顧客とくい廓内かくないつゞけきやくのなぐさみ、女郎ぢよろうらし、彼處かしこ生涯せうがいやめられぬ得分とくぶんありとられて、るもるも此處こゝらのまちこまかしきもらひをこゝろめず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
深谷は、一週間前に溺死できししたセコチャンの新仏の廓内かくないにいた!
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
廓内かくないから出てくる頭巾ずきんだの編笠の顔はいちいち無遠慮にのぞき込み、中を隠した駕が来れば、駕を止めて、そのおおいの中をあらためていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廓内かくないはいろいろ人の出盛る時刻となって、ややもすると其の混雑のなかで相手を見うしないそうになったが、たけのたかい異人を道連れにしているので
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一人淋しき老爺おやぢ三味線ざみせんかかへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷あかだすきさせて、あれは紀の国おどらするも見ゆ、お顧客とくい廓内かくないに居つづけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
廓内かくないは、一ときのまに、大騒動となり、かえりみれば、月の夜空は、火の粉をちりばめ、どこかでは早や、軍隊がうごいている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やぐらは半崩れとなり、死傷者もだいぶ出た。それにこの梅雨どきである。病人はふえるし、食糧も濡れびたしとなり、廓内かくないの惨状は目もあてられない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地下道は本丸の西の廓内かくないり抜けて出る計画の下に、夜も日もついで、坑口こうこうから土をあげた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)