平蕪へいぶ)” の例文
眼の下の大河を隔てた夕暮富士を越えて、あざやかな平蕪へいぶの中に点々と格納庫の輝くのは各務かがみヶ原の飛行場である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
末々その後裔こうえいがこんな海端の平蕪へいぶの地に、集合しまた放浪しようとも思わなかったことは同じだが、人間の長所は次々の境涯に応じて組織を拡大し生活ぶりを変え
雪が消えてまだ間もあるまいと思われる原は、岩銀杏が隙間もなく密生して、緑青をぶちまけたような平蕪へいぶに、珍車、立山竜胆、四葉塩竈よつばしおがまなどが鮮かな色彩を点じている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
くも脚下あしもとおこるかとみれば、たちまちはれ日光ひのひかりる、身は天外に在が如し。この絶頂はめぐり一里といふ。莽々まう/\たる平蕪へいぶ高低たかひくの所を不見みず、山の名によぶ苗場なへばといふ所こゝかしこにあり。
さればとて故郷の平蕪へいぶの村落に病躯を持帰るのも厭はしかつたと見えて、野州上州の山地や温泉地に一日二日或は三日五日と、それこそ白雲の風に漂ひ、秋葉の空にひるがへるが如くに
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
五郎もばくたる平蕪へいぶや並んでいる模型じみた飛行機が想像出来た。それは古ぼけたフィルムのように、色せている。しかし丹尾の風貌を、うまくそこにはめ込むことが出来なかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
くも脚下あしもとおこるかとみれば、たちまちはれ日光ひのひかりる、身は天外に在が如し。この絶頂はめぐり一里といふ。莽々まう/\たる平蕪へいぶ高低たかひくの所を不見みず、山の名によぶ苗場なへばといふ所こゝかしこにあり。
しかも異とすべきは単にそれが邑落ゆうらくを離れた平蕪へいぶの地なる点のみで、人の耕す田や畠の字ならば、こんな例はいずれの地方にもあるので、永い歳月の間にできた事とはいいながら
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さればとて故郷の平蕪へいぶの村落に病躯びょうく持帰もちかえるのもいとわしかったと見えて、野州やしゅう上州じょうしゅうの山地や温泉地に一日二日あるいは三日五日と、それこそ白雲はくうんの風に漂い、秋葉しゅうようの空にひるがえるが如くに
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鳥が舞い鹿が遊んでいた鬱蒼たる森林は、見る影もない平蕪へいぶと化してしまった。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
窮天平蕪へいぶの野に家居する人民の、奇峰怪石を愛するのは自然の情でもあろうが、われわれは谷の民だ。そうしてまた海から入ってきた移住者の末であり、盆地の窮屈にんでいる者である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)