小前こまえ)” の例文
小前こまえのもの一同もやや穏やかになったころは、将軍薨去前後の事情が名古屋方面からも福島方面からも次第に馬籠の会所へ知れて来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
名主も逃げ場を失い、漸くの事で生垣を破って逃出そうとすると、平常ふだん小前こまえの者に憎まれて居りますから、百姓衆は手に/\鋤鍬をり、名主を殺せ、名主を殺せ。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてまもなくみこご自身が軍務をおひきつれになって、大前おおまえ小前こまえの家をおかこみになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
小泉の主人にこう言って注進に来たのは、小前こまえの百姓らしくあります。洪水おおみずの出る時としてはまだ早い、と竜之助は思ったけれども、この降りではどうなるか知らんとも思いました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
店子たなこいわく、向長屋むこうながやの家主は大量なれども、我が大家おおやの如きは古今無類の不通ふつうものなりと。区長いわく、隣村の小前こまえはいずれも従順なれども、我が区内の者はとかくに心得方こころえかたよろしからず、と。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
熊笹くまざさを鳴らすつよい風はつれなくとも、しかし彼は宿内の小前こまえのものと共に、同じ仕事を分けることをむしろ楽しみに思った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小前こまえの分らぬ者などには理解をも云い聞けべき名主役では無いか、それがこと武士さむらいの腰の物を足下そっかにかけて黙ってくと云う法が有るか、とがめたらこそ詫もするが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると大前おおまえ小前こまえ宿禰すくねは、手をあげひざをたたいて、歌いおどりながら出て来ました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その間の宿場らしい道を登って行くと、親子二人ふたりのものはある石垣いしがきのそばで向こうからやって来る小前こまえの百姓にあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はい只どうもね魂消たまげてばいいます、お前も知っている通りちいせえ時分から親孝行で父様とっさまアとは違って道楽もぶたなえ、こんな堅い人はなえ、小前こまえの者にもなさけを掛けて親切にする
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
難渋な小前こまえの者はそのことを言いたて、宿役人へ願いの筋があるととなえて、村じゅうでのそう寄り合いを開始する。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あんた名主様なら何故なぜわしが処へ話をしやんせん、此のうちにはわしより外に親類はありやんしねえ、小前こまえの者が違ったことをすれば諭してやるのが名主様の役だのに、其の名主様ともあるものが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それをしなければ小前こまえのものが安心して農業家業に従事し得られないというほどのことはない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
富「古いはかまが欲しい、小前こまえの者を制しますには是でなければ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は庭のすみのなしの木のかげに隠れて、腰繩こしなわ手錠をかけられた不幸な村民を見ていたことがあるが、貧窮な黒鍬くろくわ小前こまえのものを思う彼の心はすでにそのころから養われた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手錠を解かれた小前こまえのものの一人ひとりは、役人の前に進み出て、おずおずとした調子で言った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今度は旧天領のものが奮って助郷すけごうを勤めることになりました。これは天領にかぎらないからと言って、総督の執事は、村々の小前こまえのものにまで人足の勤め方を奨励しています。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本陣、わき本陣、今は共にない。大前おおまえ小前こまえなぞの家筋による区別も、もうない。役筋やくすじととなえて村役人を勤める習慣も廃された。庄屋しょうや名主なぬし年寄としより組頭くみがしら、すべて廃止となった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)