小刻こきざ)” の例文
「じゃ、早くにね……」と、お米が振りかえると、女中のお藤は、もう小刻こきざみの足になって、砂利場の側を駈けだしていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸法師はチョコチョコと小刻こきざみに、存外早く歩いた。暗い細道を幾つか曲って、観音様の御堂を横切り、裏道伝いに吾妻橋あづまばしの方へ出て行くのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
短い杖が、鼠をうように、小刻こきざみに床石ゆかいしの上を走る。そして、一つの、椅子いすにぶつかる。盲人は腰をおろす。かじかんだ手を暖炉だんろのほうに伸ばす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かれ小言こごとみゝへもれないで「ねえようろよう」と小笊こざるげてはちよこ/\とねるやうにして小刻こきざみにあしうごかしながらおつぎのめることばうながしてまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
盲人の保護は中古以來のことですが、徳川時代になつてその制度を確立し、上は檢校總録けんげうそうろくから最下位の半打掛座頭はんうちかけざとうに至るまで、階級を七十三の小刻こきざみに分けました。
徴用ちょうようをうけてフィリッピンへ行ったりしているうちに小刻こきざみな時間が流れるように過ぎてしまった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
私は大きく首を振ったが、ドサ貫は何も言わず、首を小刻こきざみにうなずかせた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
俺は始め身体がどうしても小刻こきざみにふるえて、困った。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その揺れに——ただの風ではない意志をあらわすために——彼は長く引いたり小刻こきざみに引いたりした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
握つた手は思ひの外温かく少し汗ばんで、小刻こきざみにふるへて居るのを、八五郎は意識したのです。
にんじんは、小刻こきざみに、裏庭の小径こみちきつ戻りつしている。彼はうめき声を立てる。少し捜しては、時々鼻をすする。母親がているような気がする時は、動かずにいる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「木戸の中の足跡は小刻こきざみに付いてゐたと言つたな」
乾いた葉が、そこここで、小刻こきざみな跫音あしおとをたてる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
少し、小刻こきざみに追いついた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)