室外そと)” の例文
室外そとに進む夏のけはいを感じてじっと味わいながら、お高は、口をきくのもおっくうで、一日中ただすわっていることが多かった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一運チイフあごで為吉を指した。ボストンはちらっと彼を見遣って黙って先に立った。為吉は一歩室外そとへ踏み出そうとすると
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「あらあなたでしたの。わたしどもは少し用事ができておくれましたが、こんなにおそくまで室外そとにいらしってお寒くはありませんでしたか。気分はいかがです」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
室外そとの廊下に「嫌ですよう、引っ張っちゃあ! 行きますよ。行ったら文句はないんでしょう。」と叫ぶ肝高い女の声、「来いっ! 貴様も一緒に来るんだ!」などと男の怒声
おもなる仕事しごと矢張やは御神前ごしんぜん静座せいざして精神統一せいしんとういつをやるのでございますが、ただ合間あいま合間あいまわたくしはよく室外そとて、四辺あたり景色けしきながめたり、とりこえみみをすませたりするようになりました。
空は、仰げば目も眩む程無際限に澄み切つて、塵一片ひとつ飛ばぬ日和であるが、たま室外そとを歩いてるものは、れも何れも申合せた様に、心配気な、浮ばない顔色をして、跫音あしおとぬすんでる様だ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
察するところかねて私の聞いて居った風説のごとくに、ネパール政府では私がかつてこの国へ来たことをよく知って居るので、こういう話が済んで後に外務大書記官は室外そとへ出て行かれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「はい、はい。どうもお気の毒さま」と、お熊は室外そとへ出た。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
部屋の中には、首にまつわって線香のけむりが立ちこめ、室外そとの廊下には、造酒をはじめ五人が眼を見張り、呼吸を呑んで釘づけになっている——。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
花魁おいらん、花魁」と、お熊がまたしても室外そとから声をかける。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
こうなると、室外そとの連中、呼吸をはかってすくみあうばかりで、いつかならちがあかない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その声は室外そとへ漏れるほどだ。西宮も慰めかねていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
笑っているので、段々きいて来たかと思った玄蕃、今にも用人ようにんどもがやってくるであろう。そうしたら、サッと室外そとへ飛び退こうという心構え、チラ、チラと廊下の方へ眼を配りながら
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)