えん)” の例文
こう人材もふえ、ここもえんたる一小国となってきては、対官憲の備えからも、もはやただの浮浪山賊の群れ集まりではいられない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それもつくづく見たのではないから、年紀としのほども顔立かおだてもよくは分らなかったけれども、ただ彼が風俗は一目見て素人でないことを知った。えんたるこの大都の芸妓げいしゃの風俗、梓はぞっとしたのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えんとして魔だ!
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また、白河の代に似て、仏教の繁昌は、いやが上に、山門のおごりを助け、五畿ごきは、えんとして、仏教国のかんがあった。
えんとして、この顔ぶれは、龍ノ口評定所の総員だ。そも、何のために、こんな場所に集会して、自分を待ったのか。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きく観じれば、それそのままが、生々しい社会事件というよりは、えんとして、一場の演劇の開幕ではあるまいか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本来は、粛然たる趣のある雅楽のはずだが、酒興の乱痴気を沸かせるだけの目的であるから、りょりつもあったものではない。えんとして、神楽調である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火は松明たいまつです、黒い影は人です、やがて彼女と日本左衛門の視力をること遠くないところに、その一団がまろくなってえんたる炎のかたまりを作りました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラシャ、モール、南蛮笠などの、当時にあっては、極めて斬新ざんしんな異国調を、その武装に飾っているところは、えんとして、小信長の身なりそのままといってよい。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらにはまた、百里二百里の外にまで、小作百姓の聚落じゅらくを擁しているので、その勢力と財富とは、えんとして、一国の王侯もおよばぬほどのものだというのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何して喰べ何しに生きているのやら分らない浮浪人の徒が、仁王におうのいない仁王門の一廓いっかくを領して、火をいたり着物を干したり、寝そべったり、物を食ったり、えんとして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文官軍吏の賓客、みな盛装をこらし、礼館の式場を中心に、えんとして秋天の星の如く埋まった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部落とはいえ、えんたる山の小都会です。なおごらんなさい、突きあたりの形のいい山の裾にかかって、雲霧などの目には、一種不思議なともいえる、三角形の建物がたっています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんたる船陣せんじんをしながら、四方の海から整々せいせい入江いりえへさして集まってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨今、洛内には、東国兵の新顔を、おびただしく見かけるが、それはみな六条の配下に増員された坂東者ばんどうものであり、一族それぞれ昇官を見、門戸兵営を大にして、えんとして今や“都の豪族”である。
えんとして、祭日まつりのようであった。たくさんに酒をのむ事もゆるされた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんとして、これは世帯持ちの軍隊の大引っ越しといえなくもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんとして、ここは一つの犯罪研究室。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)