宏大こうだい)” の例文
彼は自分の宏大こうだいな、広々と延びている庭園を見ながら、両手を高くひろげて、快い欠伸あくびをした。が、彼が拡げた両手を下した時だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その宏大こうだいな広間や、屋上や、廊下や、そしてバルコニーまでが、今日は生花とセルロイド紙とをもって、うつくしく飾られていた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それは、こんなところでなく、あちらに宏大こうだいな揚屋というものや、お茶屋さんというものがありますから、そこで聞いてごらん」
しかし小さい健三はその宏大こうだいな屋敷がどこの田舎にあるのかまるで知らなかった。それから一度も其所そこへ連れて行かれた覚がなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仲店なかみせの通りから宏大こうだいな朱塗りのお堂のいらかを望んだ時の有様ばかりが明瞭めいりょうに描かれ、その外の点はとんと頭に浮かばなかった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の邸宅は大きな傷病兵療養所のようなもので、さすがの宏大こうだいさをもってしても、その住人にとっては少しも大きすぎることはないのである。
それにしてもこれは宏大こうだいな原野であった。草葉の蔭に背丈を没して、不意に彼らはびょうとした存在に化したのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
が、休息もとらず、彼は宏大こうだい築土ついじの館門を入ると、そこここを見まわして、何か、感慨無量な容子ようすだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元明げんめい天皇平城京に遷都せんとされてより、興福寺、元興寺がんごうじ、薬師寺、大安寺等が次々と建立され、聖武天皇の御代にいたってつい宏大こうだい無双の東大寺が創建される等
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
この老人は杉村といって銀座西何丁目に宏大こうだいなビルジングを持っている羅紗屋ラシャやの主人である。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私を壓倒するやうな宏大こうだいさもなければ、當惑させるやうな威嚴もなかつた。そして私が這入つてゆくと、その老婦人は立ち上つて、急いで親しげに私を迎へようと進み出た。
詩の世界は宏大こうだいであって、あらゆる分野を抱摂する。詩はどんな矛盾をも容れ、どんな相剋そうこくをも包む。生きている人間の胸中から真にほとばしり出る言葉が詩になり得ない事はない。
自分と詩との関係 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
楼上の室内を見るに甚だ宏大こうだいで十四、五の欧州風の椅子があり、上座には白布でおおうてある長方形の厚いネパール風の敷物があります。また欧州風の額面を室の四壁にけてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……繁みの向こうには、窓と丁度むかい合わせに、石の塀が黒々とそそり立っていた。宏大こうだいな庭園の樹立こだちが、高いこずえに月光を浴び、また月かげを透かせながら、石塀ごしにのぞいていた。
大地は宏大こうだいで美しい。すばらしい場所なんか、どっさりありますよ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もっと内容が複雑宏大こうだいとなるわけである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
書き出してみると、宇宙はなるほど宏大こうだいであって、実はもっと先まで遠征するつもりでいたところ、ようやく月世界の手前までしか行けなかったのは笑止しょうしである。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
信一郎は、そう云う風に考え直しながら、青色の羽蒲団はねぶとんの敷いてある籐椅子とういすに、腰をおろしていた。窓からは、宏大こうだいな庭園が、七月の太陽に輝いているのが見えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
教えられた通りに来て見ると、これは思ったより宏大こうだいな構えである。小さな大名、少なくとも三千石以上の暮らし向きに見える。竜之助は入り兼ねていささか躊躇ちゅうちょした。
手近の山は、層々かさなると、幾らか灰色がかって見えるその降りたての雪にすっぽり包まれている。黒いものは何ひとつ見えなかった。宏大こうだいな風景であるとも云える。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
塁濠るいごう宏大こうだい、天主や楼閣ろうかくのけっこうさ、さすがに、秀吉ひでよしを成りあがりものと見くだして、大徳寺では、筑前守ちくぜんのかみに足をもませたと、うそにも、いわれるほどなものはある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むろん、人跡未踏のこの宏大こうだいな原野は、そのときの人の考えではどうにも仕末におえなかったのであろう。したがって、開墾しようとするものに与える土地はいくらでもあった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あッと目を見はるほどの宏大こうだいな実験室だった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)