孟宗藪もうそうやぶ)” の例文
で、どうしたものか? ……と孟宗藪もうそうやぶの立ち思案に、思わず時を過ごしている所へ、天来の人影は秀鶴頭巾しゅうかくずきんであったのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かやぶき家根の門を這入ると、右手は梅林、左手が孟宗藪もうそうやぶ。折から秋のことで庭は紅葉し、落葉が飛石などをうずめている。
たけのこの出さかりで、孟宗藪もうそうやぶを有つ家は、朝々早起きがたのしみだ。肥料もかゝるが、一反八十円から百円にもなるので、雑木山は追々おいおい孟宗藪に化けて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「天気がいいせいだよ。なるほど随分人が出ているね。——おい、あの孟宗藪もうそうやぶを回って噴水の方へ行く人を見たまえ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わか雌松めまつの林があり、こんもりとした孟宗藪もうそうやぶがある。藪の外にはほのぼのとした薄くれないの木の花も咲いている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
東京市外の地価がだ斯うほど騰貴しなかった頃、この辺一帯の持主が畑と孟宗藪もうそうやぶを百坪乃至ないし二百坪に区切って貸地にした。これは昨今市内の華族さまがやっている社会奉仕土地開放である。
閣下 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
麦畑を潰して孟宗藪もうそうやぶにしたり、養蚕ようさんの割が好いと云って桑畑がえたり、大麦小麦より直接東京向きの甘藍白菜や園芸物に力を入れる様になったり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それを爪先つまさき上がりにだらだらと上がると、まばらな孟宗藪もうそうやぶがある。その藪の手前と先に一軒ずつ人が住んでいる。野々宮の家はその手前の分であった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水車すいしゃは、もすがらふだんの諧音かいおんをたてて、いつか、孟宗藪もうそうやぶの葉もれに、さえた紺色こんいろがあけていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしようと迷っていると女はすっくら立ち上がった。後ろは隣りの寺の孟宗藪もうそうやぶで寒いほど緑りの色が茂っている。そのしたたるばかり深い竹の前にすっくりと立った。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは根岸の孟宗藪もうそうやぶから声をかけて、頻りとかれを呼んだ男でしたが、あたりの人通りをはばかるのか、ここではただ先の姿を見失わないようにだけして、万太郎の行くがままに任せている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真鍮しんちゅうの掛札に何々殿と書いた並等なみとうかまを、薄気味悪く左右に見て裏へ抜けると、広い空地あきちすみ松薪まつまきが山のように積んであった。周囲まわりには綺麗きれい孟宗藪もうそうやぶ蒼々あおあおと茂っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と曲ってゆく孟宗藪もうそうやぶの抜け道を追って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お延は何の気なしに叔父のしている見当けんとうを見た。隣家となり地続じつづきになっている塀際へいぎわの土をわざと高く盛り上げて、そこへ小さな孟宗藪もうそうやぶをこんもりしげらした根のあたりが、叔父のいう通りまばらにいていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)