夜雨やう)” の例文
空気も大層冷たくなって、夜雨やうの威がひしひしと身に浸みる。足は恐ろしく冷い。足の裏は痛い。胴ぶるいが出て来て止まらない。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは唐崎の夜雨やうといふのは、夜更けて松の葉のこぼれるのが雨の音に似てゐるからの事で、何も雨に濡れなくともいゝのだといふ事なのだ。
夜雨やうあきさむうしてねむりらず残燈ざんとう明滅めいめつひとり思うの時には、或は死霊しりょう生霊いきりょう無数の暗鬼あんきを出現して眼中に分明なることもあるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ながやかな黒髪とその姿を、匂いの糸がゆるく巻いてくるにつれ、蕭条しょうじょうと、遠い夜雨やうの声も几帳とばりの内に沁み入ってくる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花晨かしん可なり、月夕げっせき可なり、午烟ごえん可なり、夜雨やう可なり、いづれの時か俳句ならざらん。山寺さんじ可なり、漁村可なり、広野可なり、谿流けいりゅう可なり、いづれの処か俳句ならざらん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「十日。晴。夜雨やう。今朝御出棺。西福寺さいふくじ自拝罷出じはいまかりいづ。」正寧のはうむりである。西福寺は浅草新堀端。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女は当惑しつつも、火鉢の消えた炭をとって、その手紙の奥へ、次の句「盧山夜雨草庵中」[盧山ろざん夜雨やう草庵そうあんうち]を「草の庵を誰かたづねん」と変えて書きつけて返す。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
仏氏ぶっしのいわゆる生者しょうじゃ必滅ひつめつの道理、今更おどろくは愚痴に似たれど、夜雨やう孤灯ことうもと、飜って半生幾多いくたの不幸を数え来れば、おのずから心細くうら寂しく、世にたよりなく思わるる折もありき。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みし今日の野いたみ夜雨やうきた
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
白石はくせき手簡しゆかんに八景のはじめは宋人か元人かにて宋復古と申す畫工云々とあるが、それは夢溪筆談に出てゐる度支員外郎宋迪そうてきの事で、平沙へいさ落雁らくがん遠浦ゑんぽ歸帆きはん山中さんちゆう晴嵐せいらん江天こうてん暮雪ぼせつ洞庭どうてい秋月しうげつ瀟湘せうしやう夜雨やう
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いつか、屋根の夜雨やうの音は、やんでいた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)