夕星ゆうずつ)” の例文
やがて、竹伐たけきりの行事も終り、白い夕星ゆうずつに、昼間の熱鬧ねっとうもやや冷えてくると、山は無遍の闇の中に、真っ赤な大篝おおかがりの焔をたくさんに揚げはじめた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桐畠の周囲の木立は、大きくまばたく夕星ゆうずつもとに、青々と暮れ悩んでいた。
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
凍って青く光っている、広い野の雪の色も、空気が透明で、氷を透して来たような光を帯びた碧空あおぞらに、日が沈んで行く。黄昏たそがれの空にも、その夕星ゆうずつの光にも、幾日も経たないうちに、馴れてしまった。
帰途 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
夕星ゆうずつの光が白く空にけむる。いつか夜は更けかけていた。孔明はひとたび壇を降りて、油幕ゆまくのうちに休息し、そのあいだに、祭官、護衛の士卒などにも
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後のはしを取って、湯漬ゆづけをかろく三膳食べた。高窓には、もう夕星ゆうずつが見え、辺りには暮色が立ちこめてきた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに白い夕星ゆうずつを見、風にはなんともいえぬ血臭くて重たい湿度があった。とくに赤橋勢の損害はひどく、るいるいとかばねを野にみだしていたが、そんな中をいま
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山陰やまかげの道を出たとたんである。人々は愕然がくぜんとさけんで騒ぎ立った。これから帰ろうとするとりでのあたり、夕星ゆうずつの空をそめて、赤い火気がたちのぼっているではないか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕星ゆうずつ白き下、祭の壇をきずいて、亡き龐統の魂魄こんぱくを招き、遠征の将士みなぬかずいて袖をぬらした。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濡れた屋根の石が、夕星ゆうずつの光に魚みたいにあおく光る。どこかで、ぱちぱちと火のハゼる音がするのだった。赤い火光が、山門の裏からしてくる。そこから、がやがやと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕星ゆうずつと水明りのせいか、きょうに限っていつも小馬鹿にしているもや助とは見えなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粉砕して京、摂津せっつを席巻して還る織田勢が早いか、われらに、きそいと励みを与え、なお必死の信念を加えてくれるようなもの。……各〻もはや部署につけ。夕星ゆうずつが見えはじめたぞ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左典は何か思案顔に、童顔のまなじりを神々しくふさいで、夕星ゆうずつのきらめきだした空を仰ぐ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ふと中国の空でも遠く思いやるか、夕星ゆうずつ仰いで深い眼を澄ましていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、夕星ゆうずつの下で、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや鴉だけでなく、白い夕星ゆうずつの見えはじめた山門の上でも
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さやを払ってみれば、夕星ゆうずつの下、柄手つかでに露もこぼるるばかり。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い夕星ゆうずつが、いつか、播磨灘はりまなだの空をつつんでいた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)