執念しふねん)” の例文
先刻平次から聽かされた、お狩場の四郎の執念しふねんが大きくクローズアツプされて、のしかかつて來るやうな氣がするせゐでせう。
心得こゝろえことで……はさんではてるへびの、おなじ場所ばしよに、おなじかまくびをもたげるのも、あへて、咒詛じゆそ怨靈をんりやう執念しふねんのためばかりではないことを。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我儘なヂョウジアァナは、毒々しい執念しふねんさや、口喧くちやかましい尊大な態度にも拘らず、みんなの愛に甘えてゐる。
ゆきした、堅い心も突きとほす執念しふねん深い愛、石に立つ矢、どんなに暗い鐵柵てつさくあみなかへもはひ微笑ほゝゑみ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「これから、また、あのお鈴がやつて來て、今の事情を執念しふねん深く聽きただすのであらう」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼の家の庭に這入はいつた時には、あの松と桜とにああまで執念しふねん深く絡みついて居た藤蔓は、あの百足むかでの足のやうな葉がしをれ返つて、或る部分はもうすつかり青さを失うて居るのであつた。
すてて遁しこそ遺恨ゐこんなれと自殺してせしとぞ又瀬川は年頃云交いひかはせし男と連副つれそひしに何時となく神氣しんきくるひ左右の小鬢こびんに角の如きこぶ出來し故人々彼の留守居るすゐ執念しふねんにてや有んと云しが何時いつしか人の見ぬ間に井戸ゐどへ身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
老衰者らうすゐしやの悔や執念しふねんを悲哀の箱で胸をふさがせ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
執念しふねんの闇曳きはしる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かう言つた調子で、あの三河町の伊太松の持つてゐる手紙と全く同じ意味のことを執念しふねん深くくり返すのでした。
「今から七年前——あのお内儀のお貞がまだ萬屋の娘だつた頃、執念しふねん深くつけ廻した、遊び人の歌松ですよ」
志賀屋伊左衞門は父親らしい執念しふねんで嫁になる筈だつたお里の上に、大きな疑ひを冠せてゐるのでした。
「今日は意地の惡いしゆうとのやうに口うるさいんだね。餘つ程執念しふねん深い借金取でも來たんですかえ」
この燃え立つ朽木くちきのやうな、執念しふねんだけで生きてゐる老人を相手に、ヒタヒタと詰め寄るのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ハツと思つてけ拔けると、そいつが又執念しふねん深く追つかけて來るぢやありませんか。
「怪しいのは離屋だ。あの建物を番頭とお安が執念しふねん深く奪ひ合つて居た」
盲人の恐ろしい執念しふねんは、お濱の口を通して、平次の身にもせまります。
「お越ツ、執念しふねんが過ぎるぞツ」