噂話うわさばなし)” の例文
ただの噂話うわさばなしだったかも知れぬが、そういう不心得ふこころえな者の家には、村の若い衆たちがやってきて、屋根の萱をひきはいだものだそうな。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぼくは黒井さんが好きでしたし、その若禿のために、許婚いいなずけを失ったという、噂話うわさばなしもきかされているので、うたう気にはなれません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
小夜子とお玉さんの間に、仲間の独逸人の消息とか男女の関係とか、世間の噂話うわさばなしが交されていたが、するうち三人で銀座へ出ることになった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私が彼の心持を知ったのは、初対面から二ヶ月ばかりたった頃であったが、それは直接彼からではなく、諸戸の友人達の間の噂話うわさばなしからであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひとびとはいくつもの群になって、墓地や、橋や、帽子と南瓜とが発見された場所に集り、しげしげとあたりを見まわしたり、噂話うわさばなしをしたりした。
二人は互いにさかずきを取り交わしながら、いろいろの憶い出を語ったり、親類の人たちの噂話うわさばなしに花を咲かせたり、とかくの非難攻撃を浴びせかけたり
それに、田舎は存外猥褻わいせつ淫靡いんびで不潔であるということもわかってきた。人々の噂話うわさばなしにもそんなことが多い。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして幾人かの親しい友だちが来ると、彼女は初めて元気になった。その友だちらも皆、彼女と同様に饒舌じょうぜつで、彼女と同様にパリーの噂話うわさばなしを聞きたがっていた。
毎日または隔日に、わたしはぶらっと村に出ていき絶えまなくそこにおこなわれている噂話うわさばなしを聴いた。
またしばしば叛乱将校の個人に関する噂話うわさばなしなどを、何かにつけやりだしたり、口ぎたなくかれらの罪状に追いちをかけたりして、心ある塾生たちの反感を買った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
錯雑した家族的関係やなんかが、新聞に出たこともあり、友達の噂話うわさばなしで耳に入ったこともあったが、僕はそんな事に興味を感じないので、格別心に留めずにしまった。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明るい色の衣裳いしょうや、麦藁帽子むぎわらぼうしや、笑声や、噂話うわさばなし倐忽たちまちあいだひらめき去って、夢のごとくに消えせる。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
ヤアパンニアでは黄金を重宝ちょうほうにするという噂話うわさばなしを聞いたからであった。日本の衣服をこしらえた。碁盤のすじのような模様がついた浅黄いろの木綿着物であった。刀も買った。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すくなくも一日おきぐらいに、入り江をとりまく町や村をたのまれた用たしでぐるぐるまわってくるチリリンヤは、船や車にいろんな噂話うわさばなしもいっしょに積みこんでもどってきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
右の恐怖の一隊が現われたと見ると間もなく、山王の森蔭に隠れてしまいましたから、この席のものも生き返ったようにホッとして、暫くあって、また噂話うわさばなしに花が咲き出しました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だれがまあそんな噂話うわさばなしをしていたの、ほんとうにかわいそうな話ではないか。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ちょうど其の日は激しいり合いがあって、その女たちのうちでも働き盛りの年頃の者は、しきりに負傷者の世話などをしたあとのことであった、例の如くその日の合戦の噂話うわさばなしが始まったので
帝劇で見た芝居の噂話うわさばなしをでもしているように夫人の態度は平静だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しばらくすると、彼は、まともな噂話うわさばなしの仲間入りができるようになったし、昏睡こんすいしているあいだに起きた、変ったできごとがのみこめるようにもなった。
そして、それから数日のちのこと、そのあいだ私は、可哀相な裏の女房のことは、気にかかりながらいて忘れる様にしていた。家人の噂話うわさばなしなどもなるべく聞くまいとした。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
加賀の手取川などは、同じく日本海に注ぐ著名な流れであるが、このあたりのアユの風は、椰子の実は吹き寄せなかったものとみえて、飛んでもない噂話うわさばなしが記憶せられていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
考える人にとってはすべてのいわゆるニュースは噂話うわさばなしであり、それを編集しそれを読むのはお婆さん連の茶飲みばなしにほかならない。ところがこの噂話がほしくてたまらぬ人間が少なくないのだ。
ここで彼らは、長いものうい夏の日に、一日じゅう木かげに腰をすえて、大儀そうに村の噂話うわさばなしをしたり、いつ果てるともしれぬ、とりとめのない話をしたりするのだった。
人間豹に関する恐ろしい噂話うわさばなしは、輪に輪をかけて、大衆のあいだに流布るふされていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)