喜助きすけ)” の例文
それは名を喜助きすけと言って、三十歳ばかりになる、住所不定じゅうしょふじょうの男である。もとより牢屋敷ろうやしきに呼び出されるような親類はないので、舟にもただ一人ひとりで乗った。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
田崎と抱車夫かかえしゃふ喜助きすけと父との三人。崖を下りて生茂った熊笹のあいだを捜したが、早くも出勤の刻限になった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
娼「ちょいと喜助きすけどん、あの格子先に立って居るお客さんに会いたいから、そら覗いて居る人だよ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太夫元たゆうもと権次郎ごんじろう、竹乗りの倉松くらまつ囃子方はやしかた喜助きすけ、それに女が二三人、朝といっても、かなりが高くなっているのに、思い切って自堕落なふうを、ズラリと裏木戸に並べたものです。
大熊おおくま老人にとって、およそ不思議な存在は、少年喜助きすけであった。
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もらひ持參せし由其酒にて醉伏ゑひふし相果あひはて候事と存じられ候と聞より彌々いよ/\不審いぶかしく思ひ次右衞門申樣右寶澤の顏立かほだち下唇したくちびるちひさ黒痣ほくろ一ツ又左の耳の下に大なる黒痣ほくろ有しやと聞に如何にも有候とこたへるにぞ然ば天一坊は其寶澤に相違さうゐなしと兩士は郡奉行遠藤喜助にむかひ其寶澤の衣類等いるゐとう御座候はゞ證據しようこにも相成るべく存じ候へば申受度と云に喜助きすけ申樣夫は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、ついぞ父親の行かれた事のない勝手口の方に、父の太い皺枯れた声がする。田崎が何か頻りに饒舌しゃべり立てて居る。毎朝近所から通って来る車夫喜助きすけの声もする。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
長谷川町はせがわちょうの木戸のわきに居た番太郎は江戸ッ子でございます、名を喜助きすけと云って誠に酒喰さけくらいですが、妙な男で夜番よばんをする時には堅い男だから鐘が鳴るとすぐに拍子木を持って出ます
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一年ぐらい前から来ているめいのおゆきは十九で、これは品のいい綺麗な娘、番頭の喜助きすけは四十五六の手堅い男、手代の文三郎ぶんざぶろうは店へ来て一年そこそこにしかならないが、男っ振りも評判も無類だ。