喉首のどくび)” の例文
猛然と、彼のおおきな腕はお通を抱きしめて枯草の中へたおれた。お通は白い喉首のどくびを伸ばして、声もあげ得ずに、彼の胸の中でもがいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
場所を変へた動機のもう一つは、さる日曜日の午後、なま酔ひの米兵から不意に喉首のどくびをしめられたりしたからでもある。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
何かしら、闇の中から、大きな手が出てきて、喉首のどくびをグッと締めつけられるような気味の悪い圧力を感じたのだった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼等は顔を突き出して、下顎したあごから喉首のどくびのところを地面にべつたりと押しつけ、両方から同じ形に顔を並べ合つた。
おていの細い喉首のどくびには白い手拭がまき付けてあって、何者にか絞め殺されたことは疑いもなかった。
その犬の鼻づらはちょうど杢助の喉首のどくびへんに当っていたそうであるが、いきなり顔と顔をつき合せたので、杢助は驚きと恐怖のあまりたちどころにくる眼を起こした。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おのれッ!」とばかり、うしろから組むが早いか、腕を輪締わじめに喉首のどくびを引っ掛けて、タタタタタと大廊下を五、六間引き戻した。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、さすがに菱屋庄兵衛だな、喉首のどくびのまん中だ」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なお一里ほど先には、井上有景いのうえありかげが千人をもって、南庭瀬みなみにわせの城を頑強がんきょうにかため、国境の道の喉首のどくびを、後生大事と守備しております
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、知ると同時に信長は、派遣軍と安土との聯絡れんらく遮断しゃだんされる危機にあることを察して、自身の喉首のどくびへ敵手が懸って来たようなあせりを覚えた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、喉首のどくびをさすって、ぼんやりしているのを追い返してから、金吾を誘って、わざと人ごみの観音堂の方へ歩きだします。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手がたおれると火の魔独楽まごまは、生きてるように竹童の手へもどった。そしてブンブンかれの片手にまわされている、次にはどいつの喉首のどくびへ飛ぼうかと。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——うしろから地をはってきた曲者くせものびかかってその喉首のどくびをしめあげる。だが、彼女もくっしはしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方円流ほうえんりゅう二丈の捕縄とりなわが、今に、てめえの喉首のどくびをお見舞い申して、その五体を俵ぐくりに締めあげるぞ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桑名は、長島の喉首のどくびである。信雄もここへ兵を出して、縄生村なおうむらに本営をおいた秀吉と対陣していた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうやいな、助右衛門は、いきなり主殿助の喉首のどくびを攻めて、でんと、床の上に組み伏せた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重蔵は左手でしッかと新九郎の喉首のどくびを抑さえ、右手に剣の切ッ尖をピタリと向けた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねじたおして重なりあった体が、人目もなくいどみあった。肺臓はいぞうの弱いお米は、啓之助に胸を押されて、苦しげに目をふさいだが、啓之助は盲になったように、その細い喉首のどくびを抱きしめた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおちそんじたら取ッんで、きゃつの喉首のどくびめあげても、この馬糧小屋まぐさごやのそとへかれをだしては、きょうまでの臥薪嘗胆がしんしょうたんは水のあわではないか——と思いこんでいる鞍馬くらまの竹童。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あっ——と思った時はもう迅い水が喉首のどくびを切って流れていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)