啼声なきごゑ)” の例文
旧字:啼聲
此頃このごろ空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろくもり、あたりの樹木じゆもくからは虫噛むしばんだ青いまゝの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにはとり啼声なきごゑはと羽音はおとさはやかに力強くきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
行水ぎようずゐ蚊遣かやりの火をたいてゐるのが見えたり、牛の啼声なきごゑが不意に垣根のなかに起つたりした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ある猟人かりうどが、やまかりにゆきますと、何処どこからか鸚鵡あうむ啼声なきごゑきこえます。こゑはすれども姿すがたえぬ、猟人かりうど途方とはうにくれて「おまへはどこにゐる」とひますと「わたしはこ〻にゐる」とこたへた。
しばらくするといま其奴そやつ正面しやうめんちかづいたなとおもつたのが、ひつじ啼声なきごゑになる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
汽車きしやにしてさてはきく、かれゆく子らの啼声なきごゑ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)