吐気はきけ)” の例文
旧字:吐氣
三人は修繕しゅうぜん中のサン・ドニの門をくぐって町の光のなかに出た。リゼットの疲れた胃袋に葡萄酒ワインがだぶついて意地の悪い吐気はきけが胴を逆にしごいた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しょうしょう吐気はきけが来かかったころに、ボーボーと鯨船で吹く竹法螺の音が聞え、それがきっかけで、白黒だんだらの鯨幕がさッと取りはらわれる。
獄中にゐる清吉の面倒をみながら、富岡は、女一人を殺した清吉の真面目さに打たれ、自分の贋物的にせものてき根性こんじやうが、吐気はきけのするほど厭に見えて来るのであつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それは軽く船に酔ったような心持であった。そして鉛のように重いアパシイが全身を蔽うような気がした。美しい花の雲を見ていると眩暈めまいがして軽い吐気はきけをさえ催した。
異郷 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところでその時は疲労がだんだんはげしくなって仕方がなくなって来たです。心臓病を起したのかどうしたのか知らんが息は非常にせわしくなって来まして少し吐気はきけが催しました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
またこの山地に来てまもない人々やヨーロッパ人が悩まされる鼻血、頭痛、吐気はきけは怱ち拭いてとったように消失し、心臓や肺も静穏になる。それにもかかわらず、何となく気分が悪い。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
はじかれ寒気さむけおぼえ、吐気はきけもよおして、異様いよう心地悪ここちあしさが指先ゆびさきにまで染渡しみわたると、なにからあたま突上つきあげてる、そうしてみみおおかぶさるようながする。あおひかり閃付ちらつく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
猫は吐気はきけがなくなりさえすれば、依然として、おとなしく寝ている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吐気はきけに抵抗しながら二三杯毒々しいほど濃い石灰色のキャフェを茶碗になみ/\と立て続けに飲んだ。吐気はどうやら納って、代りに少し眩暈めまいがするほどの興奮が手足へ伝わり出した。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「私このごろ眼がまわるのよ。始終雑沓ざっとうする人の顔を一々のぞいて歩くでしょう。しまいには頭がぼーっとしてしまって、家へ帰って寝るとき天井が傾いて見えたりして吐気はきけがするときもある」
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)