合方あいかた)” の例文
そこで一行の駕籠が、朝まだきの活劇を一幕残して、東海道の並木の嵐を合方あいかたに、大はまの立場たてばも素通りをしてしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わッという掛け声のうちに、賑かな下座げざが入る。三味線、太鼓、小鼓、それに木魚がつれて、ぜんのつとめの合方あいかた
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
というのは、その道具立てや、出入りの鳴物なりもの合方あいかたのたぐいが、わたしにはちっとも判らないからであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
合方あいかたゆかの浄瑠璃、ツケ、拍子木の如き一切の音楽及び音響と、書割かきわり張物はりもの岩組いわぐみ釣枝つりえだ浪板なみいた藪畳やぶだたみの如き、凡て特殊の色調と情趣とを有せる舞台の装置法と
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それぞれの見得みえ、幕引くと、九女八起上り合方あいかたよろしくあって、揚幕あげまくへ入る——
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「大層な触れ込みじゃないか、下座げざ合方あいかたが欲しいくらいのものだ」
如何いかんとなれば江戸演劇は三絃さんげんを主とする音楽なくしては決して成立するものにあらず。出這入ではいりうた合方あいかたは俳優が演技の情趣を助け床の浄瑠璃は台詞せりふのいひつくし能はざる感情を説明す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前太平記ぜんたいへいき』をほとんどそのままに脚色したもので、やはり従来のチョボの浄瑠璃じょうるりを用い、合方あいかた鳴物なりものを用い、台詞せりふも主に七五調を用い、その形式は従来のものと変わらないのであるが
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
出端でばなに聞いた合方あいかたがまた聞けるわい。陶然として酔うた竜之助は、それを興あることに聞きなして、その声のする方を注視していると、なるほど、真暗い中から、まぼろしが出て来た。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
初日を出せし後にも二、三度合方あいかたを替へそれにてもなほ落ちつかぬ模様なりけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お花さんにまず幾らか握らせて、向島あたりへ姐さんをおびき出して、ちょうど浅草寺せんそうじ入相いりあいがぼうん、向う河岸で紙砧かみぎぬたの音、裏田圃で秋のかわず、この合方あいかたよろしくあって幕という寸法だろう。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余はゆか囃子はやし連弾つれびき掛合かけあいの如き合方あいかたを最も好むものなり。『鬼一法眼きいちほうげん菊畑きくばたけの場にて奴虎蔵やっことらぞう奥庭おくにわに忍び入らんとして身がまへしつつ進み行くあたりのゆかの三絃を聴かば誰かチョボを無用なりとせん。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)