単独ひとり)” の例文
旧字:單獨
派という条、実は鴎外が単独ひとりで八人芸をしていたので、弟の三木竹二みきたけじの外には鴎外の片腕の指一本の力となるものすらもなかった。
仮令たとひ我輩が瀬川先生を救ひたいと思つて、単独ひとり焦心あせつて見たところで、町の方で聞いて呉れなければ仕方が無いぢや有ませんか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「はい、もうお蔭様で老夫おやじめ助かりまする。こうして眼も見えませんくせに、大胆な、単独ひとりで船なんぞに乗りまして、他様はたさまに御迷惑を掛けまする。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『私は、あなたが何を計画していられるか知らないが、しかしいずれにしても、有力な援助が必要です。あなた単独ひとりでは、とても成功はしませんよ』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
公然単独ひとりで墓参に行くと、そこには必ず誰か彼女を待って居るものがあった、所謂誘拐される四日前も二人はあった、そして女は降りかかる結婚問題をはなしたのだね
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
その途端に神尾主膳は、どうしたハズミか二三間後ろへどうと尻餅をいてしまいました。釣瓶の縄が切れたのです。釣瓶はすさまじい音をして単独ひとりで井戸の底へ落ちて行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうその頃は七十位だったのであろうが、遠くへ単独ひとりでゆくような様子だった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「それでは単独ひとりいているのは寂しいものだから、あなたが合わせなさい」
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『行かれる。兄さんは単独ひとりで行くんだ。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
丑松は唯単独ひとりになつた。急に本堂の内部なかしんとして、種々さま/″\の意味ありげな装飾が一層無言のなかに沈んだやうに見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
強ち硯友社ばかりが戯作者風ではなかったのだが、硯友社は思う存分に傍若無人にこの気分を発揮したので、硯友社が単独ひとりで戯作者のそしり背負せおってしまった。
単独ひとりで話をするとは、覚悟をめたね。その志に免じて一條ひとくさり聞いてやろう。その代りたばこを一本。……」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
単独ひとりで海を渡って堺へ行くことがある、犬の身でどうして単独で海を渡るかというに、まず海岸へ出て木を流してみるのじゃ、その木が堺の方へ流れて行くのを見て、犬はよい潮時じゃと心得て
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
単独ひとりでは行かれ無いの。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
一頃は本所辺に小さな家を借りて、細君の豊世と一緒に仮の世帯しょたいを持ったが、間もなくそこも畳んでしまい、細君は郷里くにへ帰し、それから単独ひとりに成って事業しごと手蔓てづるを探した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「失敬な! うそだと思うなら聞き給うな。僕は単独ひとりで話をする。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼食ちうじきの後、丑松は叔父と別れて、単独ひとりで弁護士の出張所を訪ねた。そこには蓮太郎が細君と一緒に、丑松の来るのを待受けて居たので。もつとも、一同で楽しい談話はなしをするのは三時間しか無かつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やれ大旦那が失敗したから、若旦那には学問は無用だことの、やれ単独ひとりで都会に置くのは危いことの、種々な故障が薬方の衆から出た。「家なぞはどうでもいい」と思うことは屡々しばしば有ったのである。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
単独ひとりで雪をいて倒れるところまで行つて見る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)