午砲どん)” の例文
とお父さんが言った時、大きな午砲どんが鳴った。流石に団さんの引き廻しだ。予定通り十二時きっかりに帰り着いたには感服した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
勿論、往復とも徒歩てくなんですから、帰途かえりによろよろ目がくらんで、ちょうど、一つ橋を出ようとした時でした。午砲どん!——あの音で腰を抜いたんです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午砲どんを打つと同時に、ほとんど人影の見えなくなった大学の図書館としょかんは、三十分つか経たない内に、もうどこの机を見ても、荒方あらかたは閲覧人でまってしまった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蕎麦屋の担夫かつぎ午砲どんが鳴ると、蒸籠せいろたねものを山のように肩へ載せて、急いで校門をはいってくる。ここの蕎麦屋はあれでだいぶもうかるだろうと話している。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日きのふは今日と違つて、空がどんよりと曇つて、暖かい南風が吹いてゐたので、一里南を通る汽車の笛がよく聞えた。久し振りで大阪の午砲どんも、船場邊で聞くよりはハツキリと響いた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「あの小さい方の音でも、日比谷公園あたりで聞く午砲どんに比べて如何だらう。」
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
東京の午砲どんにつゞいて横浜の午砲。湿しめった日の電車汽車のひびき。稀に聞く工場の汽笛。夜は北から響く烏山の水車。隣家となり井汲いどくむ音。向うの街道を通る行軍兵士の靴音くつおとや砲車の響。小学校の唱歌。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
午砲どんのおと微かに響き
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「直ぐにも頼む、もう、あの娘は俺の命だから、あの娘なしには半日も——午砲どん! までも生きられない。ううむ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれは卑怯ひきょうな人間ではない。臆病おくびょうな男でもないが、しい事に胆力たんりょくが欠けている。先生と大きな声をされると、腹の減った時に丸の内で午砲どんを聞いたような気がする。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風向きでは午砲どんも聞こえる。東京の午砲を聞いたあとで、直ぐ横浜の午砲を聞く。闇い夜は、東京の空も横浜の空も、火光あかりあかく空に反射して見える。東南は都会の風が吹く。北は武蔵野である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
午砲どんを聞いたら如何だらう、と云ふんだ、その驚きは、この驚きに比べて如何だらう、音響のそれと同じく、驚きといふ一つの感情も、或る程度を超えてゐる時には、ドの驚き、レの驚き、ミの驚き
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
喋っている中に午砲どんが鳴ったんだよ。僕はそのまゝ授業をやめれば宜かったのに、『田舎の午砲は大きいね』と冗談を言った。すると一人の生徒が『先生、午砲は英語で何といいますか?』と訊いた。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
近頃学校の先生がひるの弁当に蕎麦そばを食ふものが多くなつたと話してゐる。蕎麦屋そばや担夫かつぎ午砲どんが鳴ると、蒸籠せいろたねものを山の様に肩へ載せて、急いで校門を這入つてくる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やれ教育だ、それ睡眠時間だ、もう一分で午砲どんだ、お昼飯ひるだ。おまんまだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午砲どんが鳴った頃はもう二三人しか残っていなかった。
恩師 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先生と大きな声をされると、腹の減つた時に丸の内で午砲どんを聞いた様な気がする。最初の一時間は何だかいゝ加減にやつて仕舞つた。然し別段困つた質問も掛けられずに済んだ。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「……えっ、吃驚した。午砲どんだよ/\」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると、午砲どんが鳴ったんで驚いて下宿へ帰った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると午砲どんが鳴つたんで驚ろいて下宿へ帰つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)