化膿かのう)” の例文
少年はあくる日からかゆみをおぼえ、二、三日の後その部が化膿かのうしました。そうして日を経るにしたがってかわいてゆきました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「暑い季節ゆえ、気をつけて、化膿かのうさえなければ、傷は大したことはない、家中のものがおぬしの後には控えておるさ、心配しなさんな」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
また、そのためにかえって化膿かのうしたりする恐れもあったので、二三日もたっと、薬だけが紙にのばして貼られることになった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その海水浴で日焦ひやけした位の皮膚の跡が、後には化膿かのうを伴う火傷やけどとなり、数カ月も治療を要したのだが、この時はまだこの兄もなかなか元気であった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
戦場で負傷した傷に手当をする余裕がなくて打っちゃらかしておくと化膿かのうしてそれにうじが繁殖する。そのうじがきれいにうみをなめ尽くして傷がえる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「どうもまだ分りませんな。気が一向ハッキリして来ねえのです。傷の方は、いい塩梅に化膿かのうしないで済みそうですよ。明日一杯が勝負というところでしょうな」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「病勢が悪化したと云うのは、どんな風なのですか。傷口が化膿かのうしたとでもいうような……」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
刻々に化膿かのうして行くような心のうずきはひどかったが、——差し当たって彼が自身の本心のようなものに、かすかにも触れることのできたのは、彼女の最近のヒステリックな心を
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしながら数日の後に其の接眼の縫目が化膿かのうした為めに——恐らく手術の時に消毒が不完全だったのだろうと云う説が多数を占めている——彼女は再び盲目になってしまったそうである。
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは心臓の中で一か月も化膿かのうしていた腫物はれものが、急につぶれたような思いだった。自由、自由! 今こそ彼はああしたまよわしから、魔法から、妖力ようりきから、悪魔の誘惑から解放されたのである。
器械も鶏の外皮かわも一々厳重に消毒法を行って施術しじゅつするから化膿かのうする事はない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
熱もすっかりさがったし、傷の化膿かのうする心配もなさそうだ。
何だか、いま聞いたところでは、化膿かのうした盲腸を叩きつぶして、腹膜の原因を作った、といった恰好ではないかね。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
戦場で負傷ふしょうしたきずに手当てをする余裕よゆうがなくてっちゃらかしておくと、化膿かのうしてそれにうじ繁殖はんしょくする。その蛆がきれいにうみをなめつくしてきずがえる。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
火傷した女中の腕はひどく化膿かのうし、はえが群れて、とうとううじくようになった。蛆はいくら消毒しても、後から後から湧いた。そして、彼女は一カ月あまりの後、死んで行った。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
さらにその後になると、傷口からばい菌がはいって化膿かのうし、全く歩けなくなってしまう、熱帯地方では、傷の手当は特に念入りにしておかないと、あとでたいへんなことになるのだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあとが少し化膿かのうして痛がゆかったり、それが帷子かたびらでこすれでもすると背中一面が強い意識の対象になったり、そうした記憶がかなり鮮明に長い年月を生き残っている。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
槇氏の長女は避難先で分娩ぶんべんすると、急に変調を来たし、輸血の針跡から化膿かのうしてついに助からなかった。流川町ながれかわちょうの槇氏も、これは主人は出征中で不在だったが、夫人と子供の行方が分らなかった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)