化粧けわい)” の例文
抱起だきおこされるとまばゆいばかりの昼であつた。母親も帰つて居た。抱起したのは昨夜ゆうべのお辻で、高島田も其まゝ、や朝の化粧けわいもしたか、水のる美しさ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
折ふし上巳じょうし節句せっくとて、どこのむすめも女房たちも、桃の昼に化粧けわいをきそい、家の内には、宵にともひなまつりの灯や、盃事さかずきごとの調べなどして、同じあめしたながら
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陸中水沢みずさわに近い化粧けわい坂の薬師が、昔人柱に立った京の小夜姫さよひめという女の護持仏と伝え、またこの日を以て祭られるなどはその著しい例である(郷土研究二巻六九一頁)。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
桁行けたゆき七間、梁間はりま四間半、茅葺かやぶ四注しちゅう造りで、表てに十帖の座敷が三つ、接待、中の間、上段の間とある。これらは南に面しており、裏の北側に化粧けわいの間と茶の間が続いていた。
泣顔かくす化粧けわいして、ゆききの人になさけを売り、とにもかくにも日を送れど、盛りを過ぎし我々は見かえる人もあらばこそ、唯おめおめと暮しては、かつえて死なねばなりませぬ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな女に相談をかけるとはと、秋田氏をさえうらめしく思った。死んだ女は詩のない人であったが、その最後は美しく化粧けわいしてったというではないか、私は彼女に、第一の晴着はれぎが着せたかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
既に、草刈り、しば刈りの女なら知らぬこと、髪、化粧けわいし、色香いろかかたちづくった町の女が、御堂みどう、拝殿とも言わず、このきざはし端近はしぢかく、小春こはる日南ひなたでもある事か。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
化粧けわいに浮身をやつすおしゃれ女や、身の安楽ばかり考えている慾ばり女は、お館という厳めしい築地の中にうんといるが、あんなやさしい女性にょしょうが、今の世のどこにいるかよ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからちょっと説明を要するのはケワイ田、これも全国的に分布しているからわかるのでこの化粧けわいというのは大祭の日の舞女を意味する。化粧は普通の女は滅多めったにもしなかったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)