其色そのいろ)” の例文
ああ無心こそたっとけれ、昔は我も何しら糸の清きばかりの一筋なりしに、果敢はかなくも嬉しいと云う事身に染初しみそめしより、やがて辛苦の結ぼれとけ濡苧ぬれおもつれの物思い、其色そのいろ嫌よと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
味覚の発達した今の人の物を喰べるのは、其の持前の味以外に色を食べ香気にほひを食べまた趣致おもむきを食べるので、早い談話はなし蔓茘枝つるれいしくといふ人はあくどい其色そのいろをも食べるので。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
おそろしや此大恩このだいおん良人をつとこゝろちてかりにも其色そのいろあらはれもせば。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さらばうはさもうそにはあらず、うそどころかきしよりは十倍じふばい二十倍もつとし、さても、其色そのいろ尋常なみえなば、つち根生ねおひのばらのはなさへ、絹帽しるくはつとはさまれたしとねがふならひを、美色びしよくにて何故なにゆゑならん
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)