六歳むつつ)” の例文
ルウヴルの美術館でリユブラン夫人のいた自画像の前に立つてもその抱いて居る娘が、自分の六歳むつつになる娘の七瀬なゝせに似て居るので思はず目がうるむ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
兄は八歳やつつ、弟は六歳むつつに成ります。お人好しの兄に比べると弟はなか/\きかない氣で、玩具でも何でも同じ物が二つなければ承知しないといふ風です。
別れまゐらせし歳は我が齢、僅に二十歳はたちを越えつるのみ、また幼児いとけなきを離せしときは六歳むつつと申す愛度無あどなき折なり、老いて夫を先立つるにも泣きて泣き足るためしは聞かず
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わし六歳むつつぐらゐの時やつたなア、死んだおばんの先に立つて、あのお多福人形の前まで走つて來ると、堅いものにガチンとどたま(頭の事)打付ぶつけて、痛いの痛うなかつたのて。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
東に覇府はふありてより幾百年、唯東へ東へと代々よよみかど父祖ふその帝の念じ玉ひし東征の矢竹心やたけごころを心として、白羽二重にはかま五歳いつつ六歳むつつ御遊ぎよいうにも、侍女つかへをみなを馬にして、東下あづまくだりとらしつゝ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私が六歳むつつ位の時、愛宕あたご神社の祭礼おまつりだつたか、盂蘭盆うらぼんだつたか、何しろ仕事を休む日であつた。何気なしに裏の小屋の二階に上つて行くと、其お和歌さんと源作叔父が、藁の中に寝てゐた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
石油王ロツクフエラアが、ある時自動車に乗つて出掛けようとすると、直ぐそば何家どことも知れない六歳むつつばかりの小娘が立つてゐて、この富豪かねもちの顔をしげしげと見てゐるのに気がついた。
それにあのじやうの薄く我儘な私と三つ違いの異母姉ねえさんも可哀かはいい姿で踊つた。五歳いつつ六歳むつつの私もまた引き入れられて、眞白に白粉を塗り、派出はでなきものをつけて、何がなしに小さい手をひらいて踊つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
遠く過去つた記憶を辿つて見ると、私達の世界は朦朧としたもので、五歳いつつの時には斯ういふことが有つた、六歳むつつの時には彼樣あゝいふことが有つた、とは言へないやうな氣もします。
えんの方へ廻つて八歳やつつに成る兄と六歳むつつに成る弟とが障子の破れからのぞいて居る。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
その折独帝カイゼルは、六歳むつつになるをひを相手に何か罪のない無駄話にふけつてゐた。