しお)” の例文
文句はプツリと切れて居りますが、それけに凄味はしおで、千種十次郎も何んとなく背筋に冷たいものの走るのを感じます。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
却って後になってしおまざまざと眼の前に浮かび、その唇や足の線を伝わって次第に空想をひろげて行くと、不思議や実際には見えなかった部分までも
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
眺望の広大さまでがその寂蓼の感じを一しお増した。
従って淡路守の寵愛もひとしおで、掌中の珠と言おうか、かんざしの花と言おうか、言葉も形容も絶した扱い振りです。
第四日は五色温泉を経てさんの峡谷を探り、もし行けたらば八幡平はちまんだいらかくだいらまでも見届けて、木樵きこりの小屋にでもめてもらうか、しおまで出て来て泊まる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妻は強気でいるようなものの、そのひた向きな感情の裏には一としおもろい弱気が心の根をっていて、ほんのちょっとした物のはずみに泣きくずおれてしまいそうに思える。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれども私の心配なのは、あの強情な、ことに私に対してはしお強硬になりたがる彼女が、仮に証拠を突きつけたとしても、そう易々やすやすと私に頭を下げるだろうかと云うことでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
川上の荘の口碑こうひを集めたある書物によると、南朝の遺臣等は一時北朝方の襲撃しゅうげきおそれて、今の大台ヶ原山のふもとしおから、伊勢の国境大杉谷の方へ這入はいった人跡稀じんせきまれな行き留まりの山奥
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そう云って子供にせがまれると、しお不便さが増して来て、親としての腑がいなさがつく/″\と胸に沁みた。その上に又、彼は父親に死に後れた一人の老母をも養わなければならなかった。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その六 しお
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)