入乱いりみだ)” の例文
旧字:入亂
不思議に、蛍火ほたるびの消えないやうに、小さなかんざしのほのめくのを、雨と風と、人と水のと、入乱いりみだれた、真暗まっくら土間どまかすかに認めたのである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして寝台から床の上へかけて、ぬれた大きな足跡が入乱いりみだれているのである。それは人間のものではなかった。長い指と指とのあいだに、みずかきのあるのがはっきりと分る。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
激しい叫喚きょうかんと物の壊れる音とがゴッチャになって、階下から響いてきた。出口にいた城山刑事にさえぎられて、怪漢は逃げ場を失い、そこで三人入乱いりみだれての争闘が始まっているのであろう。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神楽坂かぐらざかの大通を挟んでその左右に幾筋となく入乱いりみだれている横町という横町、露路という露路をば大方歩き廻ってしまったので、二人は足の痛むほどすっかり疲れてしまったが、しかしそのかいあって
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ツになり、散々ちりぢりにちらめいて、たちまさんく、くれないとなく、紫となく、緑となく、あらゆる色が入乱いりみだれて、上になり、下になり、右へ飛ぶかと思ふと左へおどつて、前後にひるがえり、また飜つて
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「第一、格闘だといっても、その証拠がないよ。入乱いりみだれた靴の跡も無しさ。第二に、前から強迫きょうはくしているのに、背後うしろから撃ったのでは、前にいる同じ仲間のやつに、ピストルが当りゃしないかネ。僕はそんなことじゃないと思うよ」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ばさ/\、と左右さいうわかれて、前後あとさき入乱いりみだれたが、やがてなはて三個みつつならぶ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ななやつ入乱いりみだれてけたゝましい跫音あしおとけめぐる。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)