先様さきさま)” の例文
旧字:先樣
「然うです。しかし普通の詐欺では先様さきさまが承知しないから仕方ありません。蚊鉤の数が三百種からあるほど鮎は気むずかしいものです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先様さきさまで来いとおっしゃってもこっちで御遠慮しなければなりません。しかしただ一つ一生の御願に伺っておきたい事がございます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふみ 話なんか、あなたが考えなくても先様さきさまでよろしくやって下さいますよ。初めてお見合いするんじゃあるまいし。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「へえ、あっさりとね。だが、親分、先様さきさま真悪ほんわるだ、すぐと恐れ入りやしたよ。へえ、あんまり骨を折らせずにね。」
「手前たちの思惑おもわく先様さきさま御承知でよ。真鍮と見せて、実は金無垢を持って来たんだ。第一、百万石の殿様が、真鍮の煙管を黙って持っている筈がねえ。」
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ダカラ先様さきさまハアタシノ顔ナンカ忘レテラッシャルノモ無理ハナイ、アノ大勢ノ中デスカラ、アタシミタイナモン始メッカラ眼中ニオアリニナラナカッタロウ
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
師とあがめ、お兄上さまはまた、先様さきさまを殿とうやまって、一体どちらがほんとやら分りませぬが……お兄上さまにはやはりあのお方へ御奉公をしきるお覚悟でございますか
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へえ、笠森様かさもりさまのお見世みせでは、おちゃいただいたことがおますが、先様さきさまは、なにってではござりますまい。——したが若衆わかしゅうさん。おせんさんは、もはやおえではおますまいかな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大切なお品を半金に値切り倒すといっては、先様さきさま思召おぼしめしがどうあろうも知れない。万一それで御相談が折り合わないようであったならば、三百五十両までに買いあげていい。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先様さきさまには何の申分もありませんが、亡夫より男ぶりが悪いから御免をこうむりましょう」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
なんでも先様さきさま次第運命を甘受して、虐げられれば虐げられたように、甘やかされれば甘やかされたで、どっちも底なし、いつでも満ち足りず不平であり、自分は悪くなく、人だけが悪いのである。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と云うのは私も四五年まえには、御本宅に使われていたもんですから、あちらの御新造に見つかったが最後、かえって先様さきさまの御腹立ちをあおる事になるかも知れますまい。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「心細いな。先様さきさまは旗本だぜ。あの玄関構えじゃ水野十郎左衛門ぐらいの格式だろう。そこへ持って行って御家人だの足軽だのって、かえって藪蛇になりはしないかい?」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「すると、むこうも危えし、こっちもあぶねえから、そこで、逃げるように……フウム、ところで、先様さきさまアいつも人斬庖丁ひときりぼうちょうを離したこたあねえのだから、いつも逃げ——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先様さきさまに厳しい御両親でもあれば、直ぐ出戻りだものね。そうなると笑い事じゃ済まない。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
手金まで頂戴いたして置きながら、今さら破談と申すのは商売冥利、はなはだ難儀でござりますが、ともかくも明日先様さきさまがおいでになりましたら、一応は御相談いたしてみましょうか
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ええ……実は少し、掛金かけの寄らない先様さきさまがあるもんですから」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一度は、行くつもりだが……先様さきさまは、大名だからの」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)