あなどり)” の例文
庶民のあなどりを買うような仕儀に到らば打捨てては置かれまい、よし一人の私情は忍び難くとも、流れ清き徳川の旗本の面目のために……
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されば他国かのくにひじりの教も、ここの国土くにつちにふさはしからぬことすくなからず。かつ八三にもいはざるや。八四兄弟うちせめぐともよそあなどりふせげよと。
縦令たとい二親ふたおやは寛仮するにしても、女伴じょはんあなどりを受けるに堪えないと云うのである。そこで李はかねて交っていた道士趙錬師ちょうれんし請待しょうだいして、玄機の身の上を託した。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我の女はいざと云う間際まぎわまで心細い顔をせぬ。うらむと云うは頼る人に見替られた時に云う。あなどりに対する適当な言葉はいかりである。無念と嫉妬しっとぜ合せた怒である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り、仏人、かきせめげども外そのあなどりふせぎ、一夫も報国の大義を誤るなきは、けだしその大本たいほん、脩徳開知独立の文教にあり。
その理由如何、曰く、「兄弟かきせめぐも外そのあなどりを防ぐ、大敵外にあり、に国内相攻るの時ならんや」。これ明かに彼が一個の国民的論者たることを自白するものにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
剣術の巧拙こうせつを争わん、上士の内に剣客はなはだ多くしてごうも下士のあなどりを取らず。漢学の深浅しんせんを論ぜん、下士の勤学きんがくあさくして、もとより上士の文雅に及ぶべからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
決して衣食のあたいは申し受けない。そうすれば渋江一家いっけは寡婦孤児として受くべきあなどりを防ぎ、無用のついえを節し、安んじて子女の成長するのを待つことが出来ようといったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
声は訝に少しのあなどりを帯びていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)