侏儒こびと)” の例文
あろうことかあるまいことか、年景の召使で、蜘蛛太くもたという侏儒こびとと、わたくしが、不義をしているなどと云いふらすではございませぬか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侏儒こびとを使って、ルパンの秘密を捜らしていたが、夫人も最後には、ボーシュレーの悪辣を嫌って愛児ジャックを使ったとのことであった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
そして外皮に爪を入れてそれを剖いてみると、中に侏儒こびとの老人が二人さし向ひに坐つて、心静かに象棋をさしてゐた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
どう贔屓目ひいきめに見ようとしても、黒船の雄姿に比ぶる和船は、巨人と侏儒こびととの相違である。いかに軽蔑しようとしても、眼前を圧する輪郭は争われない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私娼、傀儡師くぐつし、金剛砂売り、ふたなり、侏儒こびと吐蕃人とばんじん、——そういう人々の群れであって、先頭に立って歩いているのは、鬼火の姥と範覚とであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある松はわずか六尺しか丈はなかったが、侏儒こびとのようにいじめつくされた枝と幹ばかりが太くなり、不具者のような形態が崎嶇きくとして枝をまじえていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もし、小六の云うのが真実だったとして、夷岐戸島の侏儒こびとが為十郎だとすれば、この一座を里虹とともに築き上げた彼は、はたして何者なのであろうか。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これは侏儒こびとでもない、侏儒なら、王妃のお気に入りのこの国第一の小人でも、身の丈三十フィートはあるが、これはもっと小さいから、侏儒とも言えない、と不思議がるのでした。
鼠はまるで、灰色の頬鬚ほおひげをはやした侏儒こびとのようでした。何か問うようにセエラをみつめているのでした。眼付が妙におどおどしているので、セエラはふとこんなことを考えました。
山の向うに穴居けっきょしている、慓悍ひょうかんの名を得た侏儒こびとでさえ彼に出合う度毎に、必ず一人ずつは屍骸しがいになった。彼はその屍骸から奪った武器や、矢先にかけた鳥獣を時々部落へ持って帰った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その佛蘭西ゴオルの天女が英吉利の侏儒こびとを選んでくれたと云ふので、私の好い心持ちにさせられようといふものは、或るホテルにその女を安置あんちして、召使も置いてやれば、馬車だの、カシミアだの
………或る時は森の奥の妖魔が笑う木霊こだまのような、或る時はお伽噺とぎばなしに出て来る侏儒こびと共が多勢揃って踊るような、幾千の細かい想像の綾糸で、幼い頭へ微妙な夢を織り込んで行く不思議な響きは
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
弦之丞をはじめ五人の人々が、固唾かたずをのむ疑惑の目の前に、それから、涙をこぼしながら、侏儒こびとの話すことであった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの侏儒こびとだけが、自分以外唯一の大人だったので、里虹は自分を素晴らしい巨人と信じ、船影を望むに及んで、自分の妻と二人の双生子を葬ろうとしたのです。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その侏儒こびとが廊下を曲がって、ほかの廊下の方へ姿を消した時、りんの音が聞こえて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やはり古沼のほとりで信一と一緒に聞いた不思議な響き、………或る時は森の奥の妖魔が笑う木霊こだまのような、ある時はお伽噺に出て来る侏儒こびと共が多勢揃って踊るような、幾千の細かい想像の綾糸で
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
甲虫かぶとむしのように、手をついた男を見ると、かつて見かけたことのない、町人とも武士ともつかぬひとりの侏儒こびとだ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侏儒こびとの園芸靴を履いた主は、むしろ易介以下の、リリパット人か豆左衛門でなければならないからだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一人の侏儒こびとが長い廊下を、巨大な頭を左右に振り、子供のようにヨチヨチした歩みで、でも一生懸命にはしりながら、廊下の左右に出来ているところの賓客——むしろ囚人めしゅうどともいうべき
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蜘蛛太くもただよ、開けてくれ」その時また、戸をたたく者があった。子分のうちの侏儒こびとの蜘蛛太がどこからか帰ってきたのである。四郎は待ちかねていたように
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不思議な侏儒こびとルキーンの出現は、それまで多寡たかくくっていた、法水の鐘声に対する観念を一変させた。そして彼は、凄惨な雰囲気の中に、一歩踏み入れたような気がした。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
長い木刀を横にさし、大きな笠を背負っている侏儒こびとのような小僧である。朱実がにらむと、まるッこい眼をぐりぐりうごかし、人馴ひとなつっこい歯をいてにやりとした。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わっしが、侏儒こびとだって、冗談じゃねえ。小六さんは、まだ正気に帰らねえんですよ。それよりか、豊竹とよたけ屋さん(逢痴の事)が双生児ふたごとは、そりゃまた、どうしたってことなんです」
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
遠くから見たんですけれど、体は侏儒こびとみたいに小さいくせに、顔はといえば、大人並の女なのです。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、侏儒こびとのマシコフ⁉」法水には、かつて彼を高座で見た記憶があった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ものずきな——あんな侏儒こびとの片輪者を、殿様の目をぬすんで、ねやへ入れるなんて、気がしれない」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君の云う侏儒こびとの殺人にも、大いに異論がある。そこで最初に僕は、ラザレフの右半身に中風性麻痺が起らなかったと主張するよ。そして、その証拠として、死体の両腕の温度を挙げたいのだ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、侏儒こびとは話し終ってかしらを下げた。それと一緒に、ほっと、誰ともなく息をついた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、その上足型自身にも、僕等の想像を超絶しているような、疑問が含まれている。だって考えて見給え、易介みたいな侏儒こびとの足に合うような靴で、その横幅が、一々異なっているじゃないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
口が耳まで裂けている侏儒こびとが出るというのか。俺がついているから大丈夫だ。……アッいけねえ。お婆の奴が彼方むこうで呼んでやがる。侏儒こびと妖怪ばけものよりゃあ、おふくろの方がよっぽど怖いぞ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず、ダンネベルグ夫人の屍光と代り合って、この侏儒こびと傴僂せむしは奇怪千万にも、甲冑を着し宙吊りになって殺されている。ああ、ここにもまた、犯人の絢爛けんらんたる装飾癖が現われているのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)