他人手ひとで)” の例文
「ぜひがないこととなった。したが、忍剣にんけん他人手ひとでられるのは、なんともざんねん。かれとしても本意ほんいであるまい。民部みんぶ、民部」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樽の中から他人手ひとでを借りずに出てきたら懸賞金をやるというのである。弥兵衛は早速いってみて樽の中へはいった。
奇術考案業 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
もう一軒の地主である寺本といふ家では濁酒だくしゆの醸造をはじめて、まだ十年とたない今日こんにち、家屋敷まで他人手ひとでに渡してしまつた……といふ、そんなうはさや、それから
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そして病気がちなおぬいが加減でも悪くすると、自分の床の側におぬいの床を敷かせて、自分の病気は忘れたように検温から薬の世話まで他人手ひとでにはかけなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
金銀財宝などは塵芥ちりあくたも同然だ、やがて、収穫とりいれの季節も終り、水車小屋が他人手ひとでに渡つたあかつきには、ヤグラ岳の山窩へなりとたむろして、ロビンフツドの夢を実現させようではないか
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ほとん當惑たうわくなすと雖も詮方せんかたなく年來祕藏ひざうせし差替の大小僅かの金にて他人手ひとでに渡んこと如何にも殘念ざんねんに存じ貴殿は豫々かね/″\御懇望ごこんまうもありし品ゆゑ御買取を願はんと持參なしたりと申に彼方も大橋の困窮こんきう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『お市! これへ出ろっ。他人手ひとでを待つまでもない、肉親の父惣七が成敗してやる。——出ろっ、出ろっ。その後で、不義者の相手も刺止とどめを刺してくるるから』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他人手ひとでを待っていてはとても自分の思うような道は開けないと見切りをつけた本能的の衝動から
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私の老母は、私がかようなものまで飲酒のために他人手ひとでに渡したことを知って、私に切腹を迫っている。私が若しこの宝物を取り戻して帰宅したならば、永年の勘当を許すという書を寄せている。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
『万一、あの目貫が、他人手ひとでに渡っては、われ等父子、御恩のある方へ、生涯しょうがいあわせる顔もなく、又、せっかくお骨折ほねおりくだされている仕官の口も、失うてしまわなければなりません』
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、六歳から他人手ひとでに渡されて——それも敵国へ質子ちしとして——人の世の冷たさ、むごさを、骨の中まで味わって来た元康の苦労と信長のそれとは、到底、くらべものにはならなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)