丁髷ちょんまげ)” の例文
旅籠の使用人の多くは男で、その全部が頭髪を旧式な方法で結んでいたが、事実、丁髷ちょんまげをつけていない日本人を見ることは稀である。
その頃は江戸が東京に変り、廃刀令がかれ、丁髷ちょんまげが無くなり始めて、物皆新時代の歯車の上に、活溌に回転し始めた時分のことです。
本文の「葬式」に出た粕谷で唯一人の丁髷ちょんまげ佐平さへいじいさんも亡くなり、好人の幸さんも亡くなりました。文ちゃんのじいさんも亡くなりました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日本人や支那人だって、ある時代の要求に応じて、その弁髪や丁髷ちょんまげを切り落す時は、生命の玉を取り落とす以上に感じたことであったらしい。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
此処こゝに寝ているのが亥太郎の親父おやじ長藏ちょうぞうと申して年六十七になり、頭は悉皆すっかり禿げて、白髪の丁髷ちょんまげで、頭痛がすると見え手拭で鉢巻はちまきをしているが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
読物はこの頃になっては、ずっと新しくなっていて、丁髷ちょんまげの人物にも洋傘やはやり合羽がっぱを着せなければ、人々がかえり見ないというふうだった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
九太夫や三太夫の身内らしい旧弊な名前だけれど、六太夫さんは髪を綺麗に分けて縁無し眼鏡を掛けた少壮の文明紳士で、丁髷ちょんまげの跡は蛙の尻尾ほども残っていない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「何を君は怒ってるんだ。君は日本にもう一度、丁髷ちょんまげかみしもを著せたくてしょうがないんだよ。」
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
丁髷ちょんまげを結って大小を帯して真に不様な風をしている。福沢先生の晩年に於ては実に円満なる温和なる、ごくごく常識の高い、決して過激なんどはない、おとなしい人である。
細い丁髷ちょんまげ、細いあご。異人墓から同行してきた平賀源内である。医者で作者でさむらいで商法家だが、一つ武芸者ではなかりし源内、快刀乱麻かいとうらんまの手伝いはできないので、時々そこから
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖父は丁髷ちょんまげをつけて、夏などふんどし一つで歩いていたのを覚えている。その頃裸体禁止令が出て、お巡りさんが「御隠居さん、もう裸では歩けなくなったのだよ。」と言ってやかましい。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
彼はベートーヴェンを敗徳漢だとしシェイクスピヤを香具師やしだとしていて、その代わりに、気取ったつまらない作家を喜び、丁髷ちょんまげ王を感心させるクラヴサンの音楽などを喜んでいたのだ。
謹厳方直容易に笑顔を見せた事がないという含雪将軍が緋縅ひおどしの鎧に大身おおみの槍を横たえて天晴あっぱれな武者ぶりを示せば、重厚沈毅な大山将軍ですらが丁髷ちょんまげの鬘にかみしもを着けて踊り出すという騒ぎだ。
明治二十年頃まで丁髷ちょんまげを戴いて、民百姓は勿論、朝野の名士を眼下に見下していた漢学者の父、杉山三郎平灌園かんえんを説き伏せて隠居させ、一切の世事に関与する事を断念させて自身に家督を相続し
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世には山師やまし流の医者も多けれどただ金まうけのためとばかりにてその方法の無効無害なるはなほじょすべし、日本人は牛肉を食ふに及ばずなど言ふ牽強附会けんきょうふかいの説をつくりちよつと旧弊家丁髷ちょんまげ連を籠絡ろうらく
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
楽屋へ坐っていると、下男風な丁髷ちょんまげをのっけた男がはいって来た。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
男子がすべて丁髷ちょんまげに結い、既婚婦人がすべて歯を黒くしている頃の、この国民を見た人を羨ましく思わせる程、はっきりしていた。
丁髷ちょんまげと帯刀を取払ったばかりの古風な老人は、いとも丁寧に一礼して、家族、奉公人を一人一人書斎に呼び入れます。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
誰かと思うと、久しぶりにその細い丁髷ちょんまげと細いあごを見せた、平賀源内なのである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭のてっぺんは剃ってあり、油を塗った小さな丁髷ちょんまげが毛の無い場所のまん中にくっついていた。頭の周囲には白い布が捲きつけてあった。
『レ・ミゼラブル』の大作を公にしてこの世の苛酷なる法律の運用に一矢をむくいたのとはまったく違って、我々捕物作家は、夢の国ユートピアを建設して、丁髷ちょんまげを持った法官刑吏達に
まだ大小の刀をさした丁髷ちょんまげ日本人たちが、維新の革命に血みどろになって騒いでいた慶応年間に幕府から敷地を請求して、そのころからもうぼつぼつ外人間だけでやっていた最古の競馬場であるのだ。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)