一斑いっぱん)” の例文
「やはり御令嬢の御婚儀上の関係で、寒月君の性行せいこう一斑いっぱんを御承知になりたいという訳でしょう」と迷亭が気転をかす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
予はただ一箇人いっこじんとして四十余年、先生との交際こうさい及び先生より受けたる親愛しんあい恩情おんじょう一斑いっぱんしるし、いささか老後ろうごおもいなぐさめ、またこれを子孫にしめさんとするのみ。
ところが前夜私が泊りました同行の人たちは、お前はなぜそんなに礼拝をしてシナ文字を読み立てたかと聞いたからその意味の一斑いっぱんを説き明してやりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ざっと次のごとく事項を分け列ねた各題目の下に蛇についての諸国の民俗と伝説の一斑いっぱんを書き集めよう、竜の話に出た事なるべくまた言わぬ故ふたつあわせて欲しい。
『霊枢』の如きも「不精則不正当人言亦人人異せいならざればすなわちせいとうたらずじんげんまたじんじんことなる」の文中、抽斎が正当を連文れんぶんとなしたのを賞してある。抽斎の説には発明きわめて多く、かくの如き類はその一斑いっぱんに過ぎない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
〔註〕天保、弘化度、社会生活の一斑いっぱんは、左に掲ぐる、当時の記録によりてその一斑を察すべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし彼自身の筆によらない限りその一斑いっぱんをもうかがう事はおそらく不可能な事に相違ない。
アインシュタイン (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その中には縁起もマジナイも混同しているが、マジナイの一斑いっぱんを知ることができる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今日こんにち浮世絵の研究は米国人フェノロサその他新進の鑑賞家出でて細大もらす処なく完了せられたるののちさかのぼつてゴンクウルの所論をうかがへば往々おうおう全豹ぜんぴょうを見ずして一斑いっぱん拘泥こうでいしたるのそしりを免れざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一斑いっぱん推して全豹ぜんぴょうを知るべし。之が新政府下のサモアなのだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こう順々に書いてくると、書く事が多過ぎて到底吾輩の手際てぎわにはその一斑いっぱんさえ形容する事が出来ん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また以て家庭教育の一斑いっぱんを知るべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
思い出したか急に立ち上って「吾輩は年来美学上の見地からこの鼻について研究した事がございますから、その一斑いっぱん披瀝ひれきして、御両君の清聴をわずらわしたいと思います」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)