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みずちゃや
淋し
気に馬上の身を
旅合羽にくるませたる
旅人の
後よりは、同じやうなる
笠冠りし数人の旅人相前後しつつ
茶汲女の
彳みたる
水茶屋の前を歩み行けり。
欲のねえお
人だなァ。
垂を
揚げてごらんなせえ。あれ
見や、あれが
水茶屋のおせんだ。
夜が
白々と
明けそめて、
上野の
森の
恋の
鴉が、まだ
漸く
夢から
覚めたか
覚めない
時分、
早くも
感応寺中門前町は、
参詣の
名に
隠れての、
恋知り
男の
雪駄の
音で
賑わいそめるが、十一
軒の
水茶屋の
何某の
御子息、
何屋の
若旦那と、
水茶屋の
娘には、
勿体ないくらいの
縁談も、これまでに五つや十ではなく、
中には
用人を
使者に
立てての、れッきとしたお
旗本からの
申込みも二三は
数えられたが