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あふぎや
日一杯……
無事に
直江津へ
上陸したが、
時間によつて
汽車は
長野で
留まつた。
扇屋だつたか、
藤屋だつたか、
土地も
星も
暗かつた。
どこの
田舍にもあるやうに、
父さんの
村でも
家毎に
屋號がありました。
大黒屋、
俵屋、
八幡屋、
和泉屋、
笹屋、それから
扇屋といふやうに。
木蔭には野生の
雛罌粟其他の草花が
丈高く
咲乱れて、山鳩の
群が馬蹄の音にも驚かずに
下りて居る。フツクと云ふ家は何となく東京の王子の
扇屋を
聯想させる田舎の
料理屋である。
數衛の
家は
村の
中でもずつと
坂の
下の
方にありました。
父さんの
小學校友達に
扇屋の
金太郎さんといふ
子供がありましたが、その
金太郎さんの
家よりもまだずつと
下の
方でした。
笹屋とは
笹のやうに
繁る
家、
扇屋とは
扇のやうに
末の
廣がる
家といふ
意味からでせう。でも
笹屋と
言つてもそれを『
笹の
家』と
思ふものもなく、
扇屋と
言つても『
扇の
家』と
思ふものはありません。