“歩(ぽ)” の例文
「どいておくれ。」と、男(おとこ)は、ぶあいそうにいった。少年(しょうねん)は、一歩(ぽ)退(の)いて、目(め)を細(ほそ)くして、雲切(くもぎ)れのした秋(あき)の空(そら)を仰(あお)いでいました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
一度(ど)でもしめやかに語(かた)り合(あ)うた兩性(りやうせい)が邂逅(であ)へば彼等(かれら)は一切(さい)を忘(わす)れて、それでも有繋(さすが)に人目(ひとめ)をのみは厭(いと)うて小徑(こみち)から一歩(ぽ)木(き)の間(あひだ)に身(み)を避(さ)ける。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見ないうちは、夜も昼も心のおちつくことはあるまい。おまえがあけてくれるまで、わたしはこの場(ば)を一歩(ぽ)もうごかぬぞ。
其以上(それいじやう)、私(わたし)の詰問(きつもん)の矢(や)の根(ね)は通(とほ)らぬ。通(とほ)らぬ処(ところ)に暗(くら)い不安(ふあん)の影(かげ)が漂(たゞよ)うてゐるのであるが、影(かげ)は影(かげ)で、一歩(ぽ)も私(わたし)の足迹(そくせき)を容(い)るゝを許(ゆる)さぬのである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……竹童(ちくどう)はまずよかったと、そこでいっそう身をかがませながら、はうようにして、石段を一歩(ぽ)一歩とのぼっていく……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と沈(しづ)んで云(い)ふ。果(はた)せる哉(かな)、殿(しんがり)の痩按摩(やせあんま)で、恁(か)う口(くち)をきく時(とき)、靄(もや)を漕(こ)ぐ、杖(つゑ)を櫂(かい)に、斜(なゝ)めに握(にぎ)つて、坂(さか)の二三歩(ぽ)低(ひく)い處(ところ)に、伸上(のびあが)るらしく仰向(あをむ)いて居(ゐ)た。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とうとう堪(こら)えきれなくなって、私(わたくし)はいつしか切株(きりかぶ)から離(はな)れ、あたかも磁石(じしゃく)に引(ひ)かれる鉄片(てつきれ)のように、一歩(ぽ)良人(おっと)の方(ほう)へと近(ちか)づいたのでございます……。
けれども彼(かれ)は最初(さいしよ)の解決(かいけつ)より外(ほか)に、一歩(ぽ)も此(この)問題(もんだい)にちかづく術(すべ)を知(し)らなかつた。彼(かれ)は又(また)いくら考(かんが)へても此(この)最初(さいしよ)の解決(かいけつ)は確(たしか)なものであると信(しん)じてゐた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、諭吉(ゆきち)は、これまでとはちがって、福沢家(ふくざわけ)のあととりとなったのですから、藩(はん)のゆるしがなければ、中津(なかつ)から一歩(ぽ)も外(そと)へでることができません。
夜業(やげう)の筆を擱(さしお)き、枝折戸(しをりど)開(あ)けて、十五六歩(ぽ)邸内(ていない)を行けば、栗の大木(たいぼく)真黒(まつくろ)に茂る辺(ほとり)に出(い)でぬ。其(その)蔭(かげ)に潜(ひそ)める井戸あり。涼気(れうき)水(みづ)の如く闇中(あんちう)に浮動(ふどう)す。虫声(ちうせい)※々(じゞ)。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここより百歩(ぽ)ばかり浜の方に、麻(あさ)おほく植ゑたる畑の主(ぬし)にて、其所(そこ)にちひさき庵(いほり)して住ませ給ふなりと教ふ。
「然うさ、五十歩(ぽ)百歩(ひやくぽ)さ」と、友は感慨(かんがい)に耐(た)へないといふ風(ふう)で、「少許(すこし)字(じ)が讀(よ)めて、少許知識(ちしき)が多(おほ)いといふばかり、大躰(だいたい)に於(おい)て餘り大(たい)した變りはありやしない。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それから三代目(だいめ)四代目(だいめ)とは、無關係(むくわんけい)で、構内(こうない)へは一歩(ぽ)も足(あし)を踏入(ふみい)れなかつたが、到頭(たう/\)その鷄屋(とりや)は亡(ほろ)びて了(しま)つたので、これを幸(さいは)ひと佛骨子(ぶつこつし)をかたらひ、又(また)少(すこ)し掘(ほ)つて見(み)た。
二連銃(にれんじう)の銃身(じうしん)を握(にぎ)つて水兵(すいへい)を顧見(かへりみ)ると、水兵(すいへい)は勢(いきほひ)鋭(するど)く五六歩(ぽ)此方(こなた)へ走(はし)り近(ちか)づく、此時(このとき)二發(にはつ)の彈丸(だんぐわん)を喰(くら)つた猛狒(ゴリラ)は吾等(われら)を打捨(うちす)てゝ、奔馬(ほんば)の如(ごと)く馳(は)せ向(むか)ひ、一聲(いつせい)叫(さけ)ぶよと見(み)る間(ま)に
貴方(あなた)が例證(れいしよう)に引(ひ)きなすつたストア派(は)の哲學者等(てつがくしやら)は立派(りつぱ)な人達(ひとたち)です。然(しか)しながら彼等(かれら)の學説(がくせつ)は已(すで)に二千年以前(ねんいぜん)に廢(すた)れて了(しま)ひました、もう一歩(ぽ)も進(すゝ)まんのです、是(これ)から先(さき)、又(また)進歩(しんぽ)する事(こと)は無(な)い。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私はこれから一生懸命(いつしやうけんめい)勉強(べんきやう)をしようと思つてゐます。私がこんど六十の手習(てなら)ひのやうな語學(ごがく)を初め出しましたのは、その第(だい)一歩(ぽ)のつもりなんです。私達は決して今のまゝで死(し)んではなりません。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そして、その無言の影二つは、歩(ほ)一歩(ぽ)、川なかのうへへ近づくのである。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
わたしは、十歩(ぽ)ごとにうしろをふりかえりながら歩いて行きました。マレイはわたしが歩いて行くあいだ、ずっと自分の馬といっしょに立ったまんま、わたしのうしろを見送っていてくれました。
あゝ野の路(みち)君とわかれて三十歩(ぽ)また見ぬ顔に似る秋の花
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子、増田雅子、与謝野晶子(著)
いそいで、その方向(ほうこう)へいきかけましたが、五、六歩(ぽ)もいくと、きゅうに思(おも)いとまって、もどりかけました。そして、店(みせ)の前(まえ)まできたので
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
勘次(かんじ)は依然(いぜん)として苦(くる)しい生活(せいくわつ)の外(そと)に一歩(ぽ)も遁(のが)れ去(さ)ることが出來(でき)ないで居(ゐ)る。お品(しな)が死(し)んだ時(とき)理由(わけ)をいうて借(か)りた小作米(こさくまい)の滯(とゞこほ)りもまだ一粒(つぶ)も返(かへ)してない。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そう思(おも)って、一歩(ぽ)退(しりぞ)いて見直(みなお)しますと、良人(おっと)は矢張(やは)り元(もと)の通(とお)りはっきりした姿(すがた)で、切株(きりかぶ)に腰(こし)かけて居(い)るのです。
學問(がくもん)は社會(しやくわい)へ出(で)るための方便(はうべん)と心得(こゝろえ)てゐたから、社會(しやくわい)を一歩(ぽ)退(しり)ぞかなくつては達(たつ)する事(こと)の出來(でき)ない、學者(がくしや)といふ地位(ちゐ)には、餘(あま)り多(おほ)くの興味(きようみ)を有(も)つてゐなかつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
伊那丸(いなまる)のするどい切(き)ッさきと、忍剣の禅杖(ぜんじょう)をうけかねて、息をあえぎ、脂汗(あぶらあせ)をしぼりながら、一歩(ぽ)一歩(ぽ)追いつめられたが、そのうちに、ドンとうしろへつまずいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ものの半道(はんみち)とは上(のぼ)らないのに、車(くるま)の齒(は)の軋(きし)り強(つよ)く、平地(ひらち)でさへ、分(わ)けて坂(さか)、一分間(ぷんかん)に一寸(すん)づゝ、次第(しだい)に雪(ゆき)が嵩(かさ)増(ま)すので、呼吸(いき)を切(き)つても、もがいても、腕車(くるま)は一歩(ぽ)も進(すゝ)まずなりぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はツと思(おも)つたが、最(も)う仕方(しかた)が無(な)い。余(よ)は既(すで)に一歩(ぽ)を横穴(よこあな)に踏入(ふみい)れて居(ゐ)るのだ。
一時(とき)でも、彼(かれ)から離(はな)れて見(み)たく思(おも)ふので有(あ)つたが、友(とも)は自分(じぶん)より彼(かれ)を一歩(ぽ)でも離(はな)す事(こと)はなく、何(なん)でも彼(かれ)の氣晴(きばらし)をするが義務(ぎむ)と、見物(けんぶつ)に出(で)ぬ時(とき)は饒舌(しやべ)り續(つゞ)けて慰(なぐさ)めやうと、附纒(つきまと)ひ通(どほ)しの有樣(ありさま)。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きみは、文法(ぶんぽう)を、あたらしく第(だい)一歩(ぽ)からやりなおすひつようがあるね。
紀念塔(きねんたふ)の建立(けんりつ)は終(をは)つて、吾等(われら)は五六歩(ぽ)退(しりぞ)いて眺(なが)めると、麗(うる)はしき大理石(だいりせき)の塔(たふ)の表面(ひやうめん)には、鮮明(あざやか)に『大日本帝國新領地朝日島(だいにつぽんていこくしんりようちあさひたう)』。あゝ之(こ)れで安心(あんしん)々々、一同(いちどう)は帽(ぼう)を脱(だつ)して大日本帝國(だいにつぽんていこく)の萬歳(ばんざい)を三呼(さんこ)した。
もし、そうであったら、あの母(はは)ぐまと子(こ)ぐまは、いまごろどうなっているだろうと考(かんが)えながら、一歩(ぽ)、一歩(ぽ)、奥(おく)へとはいってゆきました。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼(かれ)の心(こゝろ)を滿足(まんぞく)せしめる程度(ていど)は、譬(たと)へば目前(もくぜん)に在(あ)る低(ひく)い竹(たけ)の垣根(かきね)を破壤(はくわい)して一歩(ぽ)足(あし)を其(その)域内(ゐきない)に趾(あと)つけるだけのことに過(す)ぎないのである。然(しか)も竹(たけ)の垣根(かきね)は朽(く)ちて居(ゐ)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蘇生(よみがへ)つた樣(やう)にはつきりした妻(さい)の姿(すがた)を見(み)て、恐(おそ)ろしい悲劇(ひげき)が一歩(ぽ)遠退(とほの)いた時(とき)の如(ごと)くに、胸(むね)を撫(な)で卸(おろ)した。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何(な)にしろここは幽界(ゆうかい)、自分(じぶん)は今(いま)修行(しゅぎょう)の第(だい)一歩(ぽ)をすませて、現世(げんせ)の執着(しゅうじゃく)が漸(ようや)くのことで少(すこ)しばかり薄(うす)らいだというまでのよくよくの未熟者(みじゅくもの)、これが幾(いく)十年(ねん)ぶりかで現世(げんせ)の良人(おっと)に逢(あ)った時(とき)に
あの坂(さか)の上(あが)り口(ぐち)の所(ところ)で、上(うへ)から來(き)た男(をとこ)が、上(あが)つて行(ゆ)く中年増(ちうどしま)の媚(なまめ)かしいのと行違(ゆきちが)つて、上(うへ)と下(した)へ五六歩(ぽ)離(はな)れた所(ところ)で、男(をとこ)が聲(こゑ)を掛(か)けると、其(そ)の媚(なまめ)かしいのは直(す)ぐに聞取(きゝと)つて、嬌娜(しなやか)に振返(ふりかへ)つた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
一時(とき)でも、彼(かれ)から離(はな)れて見(み)たく思(おも)うのであったが、友(とも)は自分(じぶん)より彼(かれ)を一歩(ぽ)でも離(はな)すことはなく、何(なん)でも彼(かれ)の気晴(きばらし)をするが義務(ぎむ)と、見物(けんぶつ)に出(で)ぬ時(とき)は饒舌(しゃべ)り続(つづ)けて慰(なぐさ)めようと、附纒(つきまと)い通(どお)しの有様(ありさま)。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『夫人(おくさん)、とてもいけません。』と二三歩(ぽ)進(すゝ)んだ私(わたくし)は振返(ふりかへ)つた。
そうして、自分の身の危険(きけん)を、一歩(ぽ)一歩とわすれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余(よ)が藏品中(ざうひんちう)の第(だい)一位(ゐ)を占(し)めて、未(いま)だ一歩(ぽ)も下(さが)らずに居(ゐ)る。
ただしい勉強(べんきょう)の第(だい)一歩(ぽ)
いつになく、くろねこは機嫌(きげん)がよく、のどをゴロ、ゴロならして、ふとった足(あし)で、肩(かた)をいからしながら、二、三歩(ぽ)前(まえ)へ大(おお)またに歩(ある)きましたが
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
十歩(ぽ)に足(た)らぬそゞろ歩行(あるき)も、山路(やまぢ)を遠(とほ)く、遙々(はる/″\)と辿(たど)るとばかり視(なが)め遣(や)る……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしながら彼等(かれら)の学説(がくせつ)はすでに二千年以前(ねんいぜん)に廃(すた)れてしまいました、もう一歩(ぽ)も進(すす)まんのです、これから先(さき)、また進歩(しんぽ)することは無(な)い。如何(いかん)となればこれは現実的(げんじつてき)でない、活動的(かつどうてき)で無(な)いからである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「君行(い)くなら、一所に出様(でやう)。僕も散歩(ぽ)ながら、其所(そこ)迄行(い)くから」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
退(たい)一歩(ぽ)堕地獄(だじごく)
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはかなわぬと思(おも)ううちに、足(あし)が重(おも)くなって、もう一歩(ぽ)も前(まえ)へふみ出(だ)せなくなってしまったのです。それから後(あと)のことは、すこしもわかりませんでした。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
(おい/\、松本(まつもと)へ出(で)る路(みち)は此方(こつち)だよ、)といつて無雑作(むざふさ)にまた五六歩(ぽ)。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
エヒミチは窓(まど)の所(ところ)に立(た)って外(そと)を眺(なが)むれば、日(ひ)はもうとッぷりと暮(く)れ果(は)てて、むこうの野広(のびろ)い畑(はた)は暗(くら)かったが、左(ひだり)の方(ほう)の地平線上(ちへいせんじょう)より、今(いま)しも冷(つめ)たい金色(こんじき)の月(つき)が上(のぼ)る所(ところ)、病院(びょういん)の塀(へい)から百歩(ぽ)ばかりの処(ところ)に
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
進(しん)一歩(ぽ)生極楽(しょうごくらく)
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなはたがいに慰(いた)わり合(あ)いながら、月(つき)の光(ひかり)を頼(たよ)りに歩(ある)いてきましたが、このとき、ちら、ちら、と雪(ゆき)が降(ふ)ってくると、もはや、一歩(ぽ)も前(まえ)へは進(すす)めなかったのです。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
与助(よすけ)は、足(あし)がすくんでしまいました。そして、もう一歩(ぽ)も動(うご)くことができなかったほど、おそれを覚(おぼ)えたのであります。彼(かれ)は自分(じぶん)の命(いのち)は助(たす)からないものだと思(おも)いました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)