こえ)” の例文
旧字:
なんでも夜中よなかすぎになると、天子てんしさまのおやすみになる紫宸殿ししいでんのお屋根やねの上になんともれない気味きみわるこえくものがあります。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あるのこと、むすめは、やまはやしなかへいつものごとくはいってゆきました。すると一のかわいらしい小鳥ことりが、いいこえいていました。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのばん郵便局長ゆうびんきょくちょうのミハイル、アウエリヤヌイチはかれところたが、挨拶あいさつもせずにいきなりかれ両手りょうてにぎって、こえふるわしてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と、おもわずこえをだしたほどでした。ほこらのなかには、なんのへんてつもないいしころが、一つはいっているだけではありませんか。
子供こどもたちはとおくへいき、「もういいかい。」「まあだだよ。」というこえが、ほかのものおととまじりあって、ききわけにくくなりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
背伸せのびをして、三じゃく戸棚とだなおくさぐっていた春重はるしげは、やみなかからおもこえでこういいながら、もう一、ごとりとねずみのようにおとてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
きん小鳥ことりのやうないたいけな姫君ひめぎみは、百日鬘ひやくにちかつら山賊さんぞくがふりかざしたやいばしたをあはせて、えいるこえにこの暇乞いとまごひをするのであつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。
そして彼等かれらは、その立派りっぱつばさひろげて、このさむくにからもっとあたたかくにへとうみわたってんでときは、みんな不思議ふしぎこえくのでした。
じいさんはこのとりこえがよほどおきとえて、『こればかりは現界げんかいではきかれぬこえじゃ。』と御自慢ごじまんをしてられました。
このごろの合戦によく使われる新手な“乱波らっぱこえ”がここでもさかんに用いられて——「大塔ノ宮が叡山を下りた」、「洛中にも敵が入った」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホールとホール夫人ふじんがおそい昼食ちゅうしょくをとっていると、その部屋へやからいらいらと歩きまわるきゃく足音あしおとがひびき、そのうちにはげしいいかこえとともに
そしてうたひをはつてせきについたときに、拍手はくしゆとゝもに「モア、モア!」とこえわかいRこく紳士しんしによつてかけられた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それが、自分であると気がついたのはスクリーンの人物の幻像げんぞうが消え去ってからである。とたんに、トーキーのこえが追いかけるようにひびいてきた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そういうことばよりも、そのけたたましいわらこえがわたしを正気に返らせた。わたしは片目かためずつ開けてみた。そうして親方の指さすほうをながめた。
灰色ガンは、おなかがへって、いまにも死にそうになっていたのですが、うんよく、きのう、白ガチョウがそのこえを耳にして、見つけてくれたのです。
ふくれ上がった綿かのように雪を持ち上げている灌木など四辺あたりは荒涼と見渡たされたけれど、ときこえの主は見当らない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
突然とつぜんくらいなかで、ゴットフリートがうたいだした。むねの中でひびくようなおぼろなよわこえだった。少しはなれてたら、きとれなかったかも知れない。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
矢叫やたけときこえの世の中でも放火殺人専門の野蛮な者では無かった。机にりて静坐して書籍に親んだ人であった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一時間ばかり待っていて、救世軍の婦人から、「ときこえ」を売りつけられた時、自分の悧巧でないことが少し分った。そこへ絹子さんのお父さんがやって来た。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
卒業免状でも渡す時の様に、こえおごそかに新郎新婦を呼び出して、テーブルの前に立たせた。そうして媒妁は自身愛読する創世記そうせいきイサク、リベカ結婚の条を朗々ろうろうと読み上げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三千代みちよは其くらなかすはつて挨拶をした。始めはだれたのか、よくわからなかつたらしかつたが、代助のこえくや否や、何方どなたかと思つたら……と寧ろ低い声で云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
およそ二三秒時間二人とも黙っていたが男が突然くうにらんで、何か不思議な重い物が自分を押付けるように感じたと見えて、こえたかく「ああ、たまらん、溜らん」と云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
断崖の左右にそびえて、点滴てんてきこえするところありき。雑草ざつそう高きこみちありき。松柏まつかしわのなかをところもありき。きき知らぬ鳥うたへり。褐色なるけものありて、をりをりくさむらおどり入りたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吸いつけ煙草に離れともない在郷ざいごうの衆、客を呼ぶ牛太のこえ赤絹もみに火のついたような女たちのさんざめき、お引けまでに一稼ぎと自暴やけに三の糸を引っかいて通る新内の流し
仏教でよく修業を積んだ人の所業を評して、「うたうもうものりこえ」と言います。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
はずかしさと、かなしさと、新しいシャツを思ううれしさのこんぐらかった中で、シューラはだれかのうきうきしたような、もじもじしたようなこえを聞きわけた。はしってたためにややいきぎれがしている。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
そも/\此日や秋季皇霊祭にして満天まんてん晴朗せいらう、世人はさだめて大白をげて征清軍しんぐん大勝利だいしやうりしゆくするならん、余等一行も亦此日水源すいげん確定かくていするを得、帝国万歳のこえは深山にひびわたれり、水源の出処すであきらかなれば
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
鵂鶹声在月前枝 鵂鶹きゅうりゅうこえ月前げつぜんえだ
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こえなきむくろひとだかり、もだ冷笑ひやわらひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みどりの森がよろこびのこえわら
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
ひかりは、ほのかにあしもとをあたためて、くさのうちには、まだのこったむしが、ほそこえで、しかし、ほがらかにうたをうたっていました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
元気げんきこえをのこして、ていきました。おじいさんとおばあさんは、もんそとって、いつまでも、いつまでも見送みおくっていました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
先棒さきぼううしろとのこえは、まさに一しょであった。駕籠かご地上ちじょうにおろされると同時どうじに、いけめんした右手みぎてたれは、さっとばかりにはねげられた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
丁度ちょうどこえたかめて命令めいれいなどはけっしていたさぬと、たれにかちかいでもてたかのように、くれとか、っていとかとはどうしてもえぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夕方ゆうがたには多勢おおぜいのちいさな子供こどもこえにまじってれい光子みつこさんの甲高かんだかこえいえそとひびいたが、袖子そでこはそれをながらいていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これをきいてぼくたちむら子供こどもは、わっと歓呼かんここえをあげた。みなつきたいものばかりなので、吉彦よしひこさんはみんなを鐘楼しゅろうしたに一れつ励行れいこうさせた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのとき、ふもとのほうから、ワーッという、ただならぬときこえがおこった。くさりはまだきれていないが、忍剣にんけんはその声に、小手こてをかざして見た。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりや、」とそのおとこった。「なんこえうたうんだ! おれにも、はじめからかしてくれ。もう一ぺんうたってくれ。」
わしじつはそなたのこえましたのじゃ。』と良人おっとはじっとわたくし見守みまもながらポツリポツリかたしました。
その時、突然峰の方からときこえが聞こえて来た。犬の吠え声、女の笑い声。——窩人の部落から来るらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのなか夢心地ゆめごこち状態じょうたいにあきてくると、彼はうごきまわっておとをたてたくてたまらなくなった。そういう時には、楽曲がっきょくつくり出して、それをあらんかぎりのこえで歌った。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ふつうのうちのおとうさんだったら、どもがしょうじをやぶったり、いたずらをしたりしたら、たいていはおおきなこえでしかるものですが、諭吉ゆきちはちがっていました。
代助の方は通例よりも熱心に判然はつきりしたこえで自己を弁護する如くに云つた。三千代の声は益ひくかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
美迦野みかのさんは、炬燵布団こたつぶとん綴糸とぢいとをまるいしろゆびではじきながら、離室はなれ琴歌ことうたこえをあはせた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「おまえさんとならばヨウ、何処どこまでもウ、親を離れて彼世あのよまでもゥ」わかい女の好いこえが歌う。「コラコラ」皆がはやす。禾場うちばの日はかん/\照って居る。くるり棒がぴかりと光る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それはおもわず自分じぶんくるまなんぞのようみずなかげかけ、んでくみんなのほうむかってくびをさしべ、おおきなこえさけびますと、それはわれながらびっくりしたほど奇妙きみょうこえたのでした。
シューラはぷりぷりしたこえこたえた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「さらば」のこえ時折ときをり
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)