黄表紙きびょうし)” の例文
第二篇は歌麿の制作を分類して肉筆及黄表紙きびょうし絵本類の板下はんしたならびに錦絵摺物すりもの秘戯画等となし、各品かくひんにつき精細にその画様と色彩とを説明せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃はもう黄表紙きびょうし時代と変って同じ戯作げさくの筆を執っていても自作に漢文の序文を書き漢詩の像讃をした見識であったから
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
読みさしの黄表紙きびょうしを伏せると、勘弁勘次は突っかかるようにこう言って、開けっ放した海老床の腰高こしだか越しに戸外そとを覗いた。
京伝きょうでん黄表紙きびょうしに子供のうたとして「正月がござつた。かんだまでござつた。ゆづりはにこしをかけて、ゆづり/\ござつた」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
抽斎の好んで読んだ小説は、赤本あかほん菎蒻本こんにゃくぼん黄表紙きびょうしるいであった。おもうにその自ら作った『呂后千夫りょこうせんふ』は黄表紙のたいならったものであっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
古きは『今昔こんじゃく物語』、『宇治拾遺うじしゅうい』などより、天明ぶりの黄表紙きびょうし類など、種々思ひ出して、立案の助けとなせしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
天明は狂歌盛んに行はれ、黄表紙きびょうし漸くいきおいを得たる時なり。されど俳句とは直接に関係する所なし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それは十二三冊の小さな黄表紙きびょうし唐本とうほんで、明治四十年ごろ、私は一度浅草の和本屋で手に入れたが、下宿をうろついている間に無くしたので、この四五年欲しいと思っていた。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが、弟子入りはないとみえて、露八は、筆耕ひっこう仕事をしたり、黄表紙きびょうしものの戯作げさくなどを書いていた。飽きると、ぽかんと、指の筆を頬杖ほおづえにやり、窓の机から今戸橋をながめている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
レオパルジの隣にあった黄表紙きびょうしの日記を持って煖炉の前まで戻って来た。親指を抑えにして小口を雨のように飛ばして見ると、黒い印気インキねずみの鉛筆が、ちら、ちら、ちらと黄色い表紙まで来て留った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諷刺ふうし滑稽こっけい黄表紙きびょうしはその本領たる機智きちの妙を捨ててようや敵討かたきうち小説に移らんとし、蒟蒻本こんにゃくぼんの軽妙なる写実的小品は漸く順序立ちたる人情本に変ぜんとするの時なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
少くも貧乏な好事家こうずか珍重ちんちょうされるだけで、精々せいぜい黄表紙きびょうし並に扱われる位なもんだろう。