鳴門なると)” の例文
「なに、あの女は真公にれてやがったが、真公が居なくなると気が変になってしまって、鳴門なるとの渦の中へ飛びこんでしまったよ」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おお、それはよいご都合でござります。したが、そうなりますと使いの鳩も、あの鳴門なるとの海を越えて行き来せねばなりませぬな」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、守人の心中には、浮世のあらしよりも、今夜の雨風よりも烈しい、大きなうずがまいていた。近寄る人をまき込まずにはおかない愛慾あいよく鳴門なるとだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一枚は上海シャンハイの高夏へ宛てて、これも出来るだけ簡単に、鳴門なるとの海の景色の横へ細字で七八行にしたためたもの。———
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このほか名高い瀬戸や普通の人の知らぬ瀬戸で潮流の早いところは沢山ありますが、しかし、何といっても阿波あわ淡路あわじの間の鳴門なるとが一番著しいものでしょう。
瀬戸内海の潮と潮流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
高子は高子でひまさえあれば郵便局の事務室の窓硝子まどガラス越しに海を見やって、お父さんは船といっしょに鳴門なるとうずに巻きこまれたのではなかろうかと涙ぐんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
想ふに風雨一たび到らば、このわたりは群狗ぐんく吠ゆてふ鳴門なると(スキルラ)のくわいすみかなるべし。
阿波の結城の浦より名も恐ろしき鳴門なるとの沖を漕ぎ過ぎて、やうやく此地までは來つるぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それでは阿波あわ鳴門なるとうずに巻込まれて底へ底へと沈むようなもんで、頭の疲れや苦痛に堪え切れなくなったので、最後に盲亀もうき浮木ふぼくのように取捉とりつかまえたのが即ちヒューマニチーであった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「さいなあ、阿波あは鳴門なるとをこえて観音様くわんのんさまのお膝許ひざもとへいきやつたといのう」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
そうして今朝はもう鳴門なるとの沖なのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
阿波あは鳴門なると穩戸おんど瀬戸せと
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「すると、しんから、そこに恋しいお方があるとすれば、清姫きよひめのようにじゃになって、あの鳴門なるとを越えなければなりませんね」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その廻転は次第次第に速力を加え、お仕舞いにはまるで鳴門なるとの渦巻のようになり、そうなるとシャボン玉の形も失せて、ただ灰白色の鈍い光を見るだけとなった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝床で母からよく聞かされた阿波あわ鳴門なるとの十郎兵衛の娘の哀話も忘れ難いものの一つであった。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鳴門なるとの潮を見て徳島へ渡り、天狗久にも会って来ようと云うのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鳴門なるとうみさち
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
この本軍は、ここ福良ふくらを発して、鳴門なると渦潮うずしおを渡り、阿波あわの土佐どまりに、足場を取る作戦と見えた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師匠豊沢団七から「いつになったら覚えるのか」と撥で突き倒された記念であるというまた文楽座の人形使い吉田玉次郎の後頭部にも同じような傷痕がある玉次郎若かりし頃「阿波あわ鳴門なると」で彼の師匠の大名人吉田玉造がものの場の十郎兵衛を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
諸将の眼は、彼の姿と、座中にある一枚の鳴門なると海峡の絵図面とに集まった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)