しゃちほこ)” の例文
もうこの辺で一応金のしゃちほこへもお暇乞いをした方がよかろうという気になったのは、一つは道庵先生に先を越されたその羽風にも煽られたのでしょう。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
下には松に囲まれた石垣を控え、上にはお城の建物がそびえ、しゃちほこった屋根から、空を飛ぶ鳥に至るまで、よくも上手に織り出したものと思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
市の東端吸江きゅうこうに架した長橋青柳橋あおやぎばしが風の力で横倒しになり、旧城天守閣の頂上の片方のしゃちほこが吹き飛んでしまった。
颱風雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
名古屋の金のしゃちほこにお天道様が光らない日があっても、釘抜藤吉の睨んだ犯人ほしに外れはないという落首が立って
鯨にしゃちほこ、末社に稲荷。これに逢っちゃ叶いません。その癖奴が、どんな乱暴を働いたって、仲間うちから、いくら尻を持って行っても、うけはしないんですがね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ等をゼイロクとののしり去って、玉川上水にけつを使い、天下の城のしゃちほこを横眼に睨んだ江戸ッ子は、正に大和民族の男性的な性格を最も痛快に代表しているものと云えよう。
成程、金のしゃちほこが朝日を受けて燦爛さんらんとしている。僕が頻に伸び上ると、徳さんは
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一度はしゃちほこのような勇ましさで空を蹴って跳ねあがったかとおもうと、次にはかっぽれの活人形いきにんぎょうのような飄逸ひょういつな姿で踊りあがり、また三度目にはえびのように腰を曲げて、やおら見事な宙返りを打った。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「まあ、待っていろ、女はあとでイヤというほど見せてやるから、もう少し念入りに、あの金のしゃちほこを見て置け、百」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お城の屋根の金のしゃちほこはどの本も忘れずに書く名物であります。しかしそれは昔の姿でありまして、新しい名古屋は盛な商売の都として様子を一変しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
天下の城のしゃちほこの代りに、満蒙露西亜ロシアの夕焼雲を横目ににらんで生れたんだ。下水どぶの親方の隅田川に並んでいるのは糞船くそぶねばっかりだろう。那珂なか川の白砂では博多織を漂白さらすんだぞ畜生……。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの金のしゃちほこのある尾張名古屋の城の見えないところへは行きたくありません、死ぬならば尾張の国の土になりたい、熊本はわたしの故郷ではありません
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
名古屋城の金のしゃちほこの光よりも、この郷土民が何百年の昔の歴史に信仰を置いて、何の功業もない我々を尊敬してくれる、これこそ、系図の余沢よたく、先祖の光である
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見な、金のしゃちほこへ朝日があたり出して、あの通りキラキラ輝いているところは素敵なもんじゃねえか
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それよりも一層この尾張の名古屋の城に清正の精神がこもっているのです、それですから、わたくしは、どうしても、あの名古屋城のしゃちほこの見えないところへは行きたくないと
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お城の金のしゃちほこを眺めて行くのが例になっているから、その翌日の早朝に、旅の三人連れの者——うち二人は当世流行の浪士風のもの、他の一人は道中師といったような旅の者が
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金のしゃちほこを横眼ににらみながらいやみたっぷりを聞かせていたが——名古屋からここにのしたと見れば、この野郎の足としては、さまでの難事ではないが、こんな野郎に足踏みされた土地には
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そもそも、津田生が飛行機の発明を企てるに至った最初の動機というものは、例の柿の木金助がたこに乗って、名古屋城の天守の金のしゃちほこを盗みに行ったという物語から起っているということです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)