おろ)” の例文
就中なかんずく疱瘡は津々浦々まで種痘が行われる今日では到底想像しかねるほど猛列に流行し、大名だいみょう高家こうけおろか将軍家の大奥までをも犯した。
むつかしく考えないと学問ではないというような、おろかな迷信から脱出する手始めに、まずこの面倒くさい問題を、できるだけ素朴に処理してみよう。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は表現の権威につきては十分注意したつもりであった。表現の価値を批判しつつ、みずからも言い女の言をも聞いた気であった。しかしなんといっても私がおろかにしておさなかったに相違ない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
二葉亭ばかりが志を得られなかったのではない。パデレフスキーも日本に生れたら大統領はおろか文部の長官にだって選ばれそうもない。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
つてを求めて権門貴戚きせきに伺候するはおろか、先輩朋友の間をすらも奔走して頼んで廻るような小利口な真似は生得しょうとく出来得なかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
つきゆきはなおろいぬんだとては一句いつくつくねこさかなぬすんだとては一杯いつぱいなにかにつけて途方とはうもなくうれしがる事おかめが甘酒あまざけふとおなじ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
増給はおろか、ドンナ苦しい事情を打明けられても逆さに蟇口を振って見せるだけだ。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
飜訳文なるものは大抵ゴツゴツした漢文くずしやあるいは舌足らずの直訳やあるいは半熟の馬琴調であって、西文の面影をしのぶに足らないはおろか邦文としてもまた読むに堪えないものばかりだった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)