鬢盥びんだらい)” の例文
鬢盥びんだらいに、濡れ手拭を持ち添えたいろは茶屋のお品は、思いきりの衣紋えもんにも、まださわりそうなたぼを気にして、お米の側へ腰をかける。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あか鬢盥びんだらいへ殆んど一杯ほども吐き、そのまま気を失ってしまった。お豊のはせきたんも出ず、躯が痩せるというのでもなかった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
側に鬢盥びんだらいというものがあって、チョイチョイ水をつけ、一方の壁には鬢附け油が堅いのとやわらかいのとを板に附けてある。
その窓の下には手箒てぼうきが掛けてあつて、その手箒の下の地面即ち屋外には、鬢盥びんだらいと手桶のやうなものが置いてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また並び床といって、三十軒も床屋があって、鬢盥びんだらいを控えてやっているのは、江戸絵にある通りです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
変ったといっても店の体裁ていさいや職人小僧のたぐい、お客の扱いに別に変ったところはなく、「銀床ぎんどこ」という看板、鬢盥びんだらい尻敷板しりしきいた毛受けうけ手水盥ちょうずだらいの類までべつだん世間並みの床屋と変ったことはない。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近づいて行って見ると、玄蕃允は、小姓の一名に鏡を持たせ、また一名には鬢盥びんだらいを捧げさせて、青空の下に他念なく、顎鬚あごひげっているところだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき縁側の向うから、若い侍女が鬢盥びんだらいを持って来かかり、小五郎をみつけて、吃驚したように会釈した。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
った用人が、風呂場の手洗い場に、鏡、水桶、鬢盥びんだらいなど、毎朝の物を供えて、彼の袂を後から介添えした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつねは長火鉢にかけてある真鍮しんちゅう鬢盥びんだらいの中から、湯気の立つ布切をつまみあげ、ふうふう吹きながらざっと絞ると、おようの解いた髪毛へ当てては、結い癖を直した。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、なおりかけているあごの先を、小姓の持つ鏡の前へ突き出して、悠々ゆうゆうと剃り終り、さて剃刀かみそりを置き、鬢盥びんだらいの水で青髯あおひげあとを洗いなどしてから、初めてこっちへ向き直った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、何の気もなく窓の根元になった屋根の上をみると、小さな鬢盥びんだらいが出してあって、その中に、唇を拭いた紙と、緋撫子ひなでしこをしぼったような、鮮麗な色の血が、あふれるほど吐いてあった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牡丹刷毛ぼたんばけをもって、しきりと顔をはいていたいろは茶屋のおしなは、塗りあげた肌を入れて鏡台を片よせると、そこの出窓をあけて表も見ずに、手斧削ちょうなけずりの細格子ほそごうしの間から鬢盥びんだらいの水をサッといた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あいにくと、鬢盥びんだらいがございませんが」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)