かぶり)” の例文
夢の御告げでもないならともかく、娘は、観音様のお思召おぼしめし通りになるのだと思ったものでございますから、とうとうかぶりたてにふりました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえ/\」と女史は笑ひ/\かぶりつた。「私何も正直にいて戴きたいんぢやありませんわ。どうぞ出来るだけ御贔屓振ごひいきぶりをお見せなすつてね。」
平野老人はかぶりを振ったから、そそっかし屋の市川は一時いっとき、面を赤くしましたけれど、老人があんまり手厳てきびしくねつけたものですから、反抗の気味となって
こうまでした俺の気を察しねえで、かぶりを、横に振る分にゃあ、俺も男だ、なぶり殺しに殺すか、仲間部屋へ連れ込んで、念仏講にした上で、夜鷹宿へたたき売るか。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
誰がお前なんかにと、剣もホロロに横にかぶりを振られてしまうのじゃなかろうか。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
先方さきの男がうんといえば自由結婚だなどと吹聴あそばし、またかぶりをふればナニ此処こゝな青瓢箪野郎、いやアに済していアがる、生意気だよ、勿体なくも私のような茶人があればこそ口説くどきもしたのさ
自分はかぶりをふッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
給仕は成長おほきくなるに連れて、ぐん/\出世をした。タフト氏が大統領をしてゐた頃、この給仕を大蔵省の秘書に抜擢ばつてきしようとしたが、給仕はかぶりをふつて承知しなかつた。
太膳は思案に苦しんで、馬に相談してみたが、馬はにも言はないでかぶりをふつた。大膳はやがてその馬をも手離してしまつた。馬を売つた金は十日とは残つてゐなかつた。
と友達は大事さうに紙包を左の腋下わきしたに持ち替へながら、可笑をかしさうにかぶりを振つた。
背高のつぽの上院議員は、流石に可哀相かあいさうになつて、あとを追つて表へ出た。そして御機嫌取りに売子の手から新聞を一枚買ひ取らうとした。売子はかぶりつて、どうしても新聞を呉れようとしなかつた。
女は黙つてかぶりつた。