頬冠ほゝかぶ)” の例文
「そればかりは判りませんよ、何時でも手拭で頬冠ほゝかぶりをして——誰かに後を跟けられたと覺ると、その逃げ足の早いと言ふことは——」
取建四方の道筋みちすぢへは與力同心等晝夜出役して往來わうらいの旅人うま駕籠かご乘打のりうちを禁じ頭巾づきん頬冠ほゝかぶりをも制し嚴重に警固せり天一坊方にては此樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
病人はまた頬冠ほゝかぶりをさせられた。今度は一段と強く縛られたので、顔は小包のやうに歪んでゐた。医者はそれを連れて裏の柿の木の下に立たせた。
永禪和尚もう是までと諦らめ、逐電致すよりほかはないと心得ましたから、のぞきの手拭で頬冠ほゝかぶりを致し、七兵衞の褞袍どてらを着て三尺を締め、だく/″\した股引ぱっち穿きまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かしおき其夜そのようしこくとも思しき頃かね研澄とぎすましたる出刄庖丁でばばうちやう懷中くわいちうなし頬冠ほゝかぶりして忍びいでやがて質屋の前へ行き四邊あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
盲目地めくらぢの袷に、豆絞りの頬冠ほゝかぶりで、懷中ふところに呑んでゐた匕首あひくちを拔いて、おどかしながら——俺は黒雲五人男の一人だ、岡つ引の家を承知で入つたが、ジタバタすると命が危ない。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
医者は急いで頬冠ほゝかぶりをとらせてみたが、病人は相変らず間の抜けた顔をして涎をくつてゐた。
してやらんとしり引縛ひつから強刀物だんびらものを落しざしになし頬冠ほゝかぶり深く顏をかく利根川堤とねがはづつみさしいそぎけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は田圃道たんぼみちにかゝりました。と出逢ひ頭に、森の中から出て來た男、ハツと面喰つた樣子で、頬冠ほゝかぶりのまゝ通り過ぎます。横顏だけしか見えませんが、二十五六の小意氣な男です。
牝犬めすいぬの死んだ前の日、變な奴がウロウロして居たさうですよ。小僧や小女が追つ拂つても、頬冠ほゝかぶりも取らずに何にかブツブツ言つて居たが、主人の顏を見ると、さすがに驚いて逃げ出したさうで」
「でも、侍まげ頬冠ほゝかぶりの下から見えたと叔母は言ひましたぜ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)