すこ)” の例文
火事にもわずに、だいぶ久しく立っている家と見えて、すこぶる古びが附いていた。柱なんぞは黒檀こくたんのように光っていた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これはね、昨日きのふあるひと銀婚式ぎんこんしきばれて、もらつてたのだから、すこぶる御目出度おめでたいのです。貴方あなた一切ひときれぐらゐあやかつてもいでせう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すこぶる人望のある御人であつたが大阪の行營ぎやうえいこうぜられたので、そこで慶喜公が其後そのゝちを繼いで將軍となられたのである。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
じじしきりに嘆願しているが、馬車屋はがんとして応ぜぬ。事情を聞けば、草津行の乗合馬車には赤馬車と称する会社があって、すこぶる専横を極めている。
身体を七分三分にヒネツタすこぶる「卓抜非凡」の御容子ごようすです。内容はその「新吉原改良論」より巻末の「脚本白拍子祇王」に至るまで、一々「独創の識見」に満ちた御作です。
寄贈書籍 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
私の部下というのは、私とは正反対に風采のすこぶる立派な、カイゼルひげをピンと跳ね上げた好男子の看護長で、その話ぶりは如何にも知ったか振りらしい気取った軍隊口調であった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またいくつか里をこえてゆくと、橋普請の材木のみいたずらに道をふさいで、橋桁はしげたすらない所がある。小さい川ながらすこぶる足場がわるい。道からわりに深い川床へとおりて、すぐまた上る。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
と云ふは江戸臭くして却つて興味なし諸事旅は此事よと稱して箸をくだすに味ひすこぶる佳しつかれを忘れて汲みかはせしが初日ゆゑか人々身体に異常をおぼえて一徳利ひとゝくりきはめし數にも足らで盃を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しかし今では奇妙なもので、「もうそれも平気になった」と彼はすこぶる平然として語ったが、この際弟は、思わずそこの玻璃がらす窓越しに見える死体室を見て、身震みぶるいをしたと、はなしたのであった。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
彼は時間に対してすこぶる正確な男であった。一面において愚直に近い彼の性格は、一面においてかえって彼を神経的にした。彼は途中で二度ほど時計を出して見た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)