音吐おんと)” の例文
ことさらにいうとも思えないほどの自然な調子、朗々たる音吐おんとで、雅文体の問答をしかけられましたので、捕えられた男装の婦人は
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その沈着な容子と、朗々たる音吐おんとに、一瞬敵味方とも耳をすましたが、終ると共に、玄徳の兵が、わあっと正義のいくさたる誇りを鯨波ときのこえとしてあげた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠臣孝子義士節婦の笑うく泣く可く驚く可く歎ず可き物語が、朗々たる音吐おんとを以て演出せられて、処女のように純潔無垢な将軍の空想を刺戟しげきして
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
南岳わかくして耳ろうせり。人と語るに音吐おんと鐘の如し。平生奇行に富む。明治卅八年秋八月日魯にちろ両国講和条約の結ばれし時、在野の政客暴民を皷煽こせんし電車を焼き官庁を破壊す。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その音吐おんと朗々として、言葉癖、尋常ならず。一眼にて吾が素性を見貫みぬきたるものの如くなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
続いて彼方かなたの夜霧の中から起った声は、以前と同じく優しい子供らしい声で、しかもこの時は一層はっきりして、朗々たる音吐おんとになっておりました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
壇の上に立って、岡崎の善信は今、低い音吐おんとのうちに何か力強いものを打ちこめて、諄々じゅんじゅんと、人々と、人々のたましいへ自己のたましいから言葉を吐いているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
児髷の子供も、何か分からないなりに、その爽快そうかい音吐おんとに耳を傾けるのである。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
男性を思わせるくらいの朗々たる音吐おんとでしたが、その調子の綴りを聞いていると、まさに一首の歌です。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
菩提ぼだいを慕うやみ難い心のあらわれか、単に、非業ひごうな最期をとげた父義朝や兄や一族たちへの一片の供養くようか、それとも、世をあざむ音吐おんとか、依然としてこの人の肚というものは
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漁村の書を講ずる声は咳嗄しわがれているのに、竹逕は音吐おんと晴朗で、しかも能弁であった。後年に至って島田篁村の如きも、講壇に立つときは、人をして竹逕の口吻こうふん態度を学んでいはせぬかと疑わしめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
皇居はいま、二条の里内裏さとだいりにあるので、紫宸ししん清涼せいりょうきざはしではないが、御簾みすちかく彼を召されて、特に、賜酒ししゅを下され、そして音吐おんとまぎれなく、帝じきじきのおねぎらいであった。
と前置をして、田山白雲は朗々たる音吐おんとで、次の詩を吟じ出しました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いったいに日頃も音吐おんとの高い声の質が、体じゅうから意識的に発したものだけに
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官兵衛も大男のほうではないが、秀吉も小柄である。ただ人いちばい大きいのはその音吐おんとであった。体に似合わない大声がこの人の自然であるらしく、客が席に着くと挨拶も甚だ簡単にかたづけて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、奉書の冒頭から、次第に、音吐おんとをたかめて行った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、明瞭な音吐おんとで云った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)